クレーンゲームは苦手

クレーンゲームのコーナーにやってきた俺達三人は最初にぬいぐるみを狙っていた。狙っているぬいぐるみは寝そべっている茶色の犬で、大きいサイズの物だった。


まずは俺がやってみる。たまたま前、ちらっと見たクレーンゲームの動画を思い出しながらやってみる。


「もう少し右じゃないですか?あっ!掴みましたよ!」

「でもこういうときは……」


佳奈がそう言うとクレーンからすぐにぬいぐるみが抜け落ちてしまった。

クレーンゲームはクレーンの掴む力が弱いものが多く、コツがあるとか。俺はゲーセンに行かないのでクレーンゲームの知識は持っていない。


「……ごめん、取れない」

「仕方ない、私がきょうちゃんの代わりに取るわ」


佳奈は腕をまくった。その様子から佳奈はクレーンゲームが得意なのだろう。

俺は佳奈と位置を交換した。佳奈はお金を入れてレバーを掴んだ。


「コツとしてはまず中心は狙わないことね」

「どうしてだ?」

「頭が大きいぬいぐるみは頭のほうが重くて、体の方は軽いの」


言われてみれば、頭が重いので中心を掴んでもそこから落ちてしまうということなんだろう。なのでそれを利用して重たい頭の方を掴んで運べばいい、という考えらしい。


「だから頭の方を狙って……ほらこんな感じ」


佳奈が操るクレーンは犬の頭を掴んでいる。俺がやったときよりも安定しているようにも見える。


「ああ……落ちちゃった……」

「クレーンゲームは一回で取れることが多くはないから、少しずつ動かしていくわ」


それから何度も犬の頭を狙ってつかみ、ようやく取れそうな段階まで来た。

犬は獲得口に乗っており、押しただけでも取れそうだった。


「あとはこうやって、後ろを掴んであげれば……」

「おおっ!」


獲得口にぬいぐるみが落ちて、佳奈はそれを取り出すと福永先輩に渡した。


「いいんですか……?」

「ええ、私の部屋にはもう置く場所がないので」

「ありがとうございますっ!」


福永先輩は笑顔で佳奈に礼を言った。それにつられて佳奈も少しだけ笑っていた。

二人の様子を微笑ましく見守っていると福永先輩がこっちにも笑顔を向けてきた。


「京介くんもありがとうね!」

「いやいや、俺は何もしてないから」

「それでも私のために挑戦してくれたのでとっても嬉しかったですっ!」


俺はただ1回だけしかチャレンジしていないので感謝されると思っていなかったが、先輩は律儀な人だ。



佳奈が先輩のために犬のぬいぐるみを取った後、どこかに行ってしまった。なので、俺は先輩とゆっくりとゲーセンを見て回った。

そうするうちに時間は過ぎて、今は6時ちょっと過ぎくらいだ。


「俺はそろそろ帰ろうと思うんだけど、先輩はどうする?」

「私も帰ろうと思います。遅く帰ってしまうと両親に心配されてしまうので」

「流石に夜道に一人で帰るのは危ないので送っていくよ」

「お言葉に甘えて送っていってもらいましょうか」


俺は先輩に手を差し出すと先輩は左手に佳奈が取ってくれた犬のぬいぐるみを抱いて、右手は俺の手を握る。

先輩の手は俺よりも小さく、柔らかい。


「初めて男の子と手を繋ぎましたが、京介くんの手は大きくてなんだか安心しますね」


今まで咲や佳奈と手を繋いできたが、二人にそんなことは言われたことが無いので、こう言われるのは先輩が初めてだ。


「そうなんだ、初めて言われたわ」

「私達初めて同士ですね」


ふふふ、と嬉しそうにしている福永先輩に少しドキッとした。


「……そろそろ着きますので、ここらへんで大丈夫ですよ」

「わかった、それじゃあ先輩また」

「あ……京介くん」


先輩は俺を呼び止めた。その声はどこか寂しそうに聞こえた。


「また、一緒におでかけ、しませんか……?」

「勿論、いつでも呼んでよ」


先輩はどうやらまた俺と一緒にお出かけしたいようだった。俺がそれに承諾すると先輩は今日見せた中でもとびっきりの笑顔を見せてくれる。


「ありがとうございますっ!またね?」

「おう」


俺は先輩と別れ、帰路につく。空は夕日によりオレンジ色に染まり、幻想的な風景だった。


「きれいだな……」

「私もそう思う」


俺がポツリと言ったその言葉に同意する声が聞こえた。隣にいたのは今日一緒に遊んだ佳奈だった。

急に隣にいるもんだからとってもびっくりした。


「……なんでいるの?」

「ひどい、私を置いていくなんて……」

「連絡したじゃん」


佳奈はスマホを取り出し、俺とのチャットルームを開くと確かに俺のメッセージが届いていた。


「……今気づいた」

「で、なんでいるの?」

「帰り道一緒だから」

「そうなんだ……」

「ちなみに隣だよ」


だから最近引っ越し業者が隣に来てたのか。こんなところで答え合わせをすることになるとは。

というか俺の家は幼馴染に挟まれたということか。

そんなどうでもいいことを考えていると佳奈は俺の袖を引っ張る。


「どうしたんだ?」

「手」

「手?繋ぎたいのか?」

「うん」


佳奈の手を優しく包み込むと佳奈は満足そうだった。


「きょうちゃん」

「なんだ」

「また遊ぼうね」


佳奈はいつもの真顔から少し笑顔になった。俺は少しだけだが笑う佳奈を久しぶりに見て懐かしく感じた。



あとがき

少なくてすみません!!

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転校生は殺し屋さん 御霊 @Alps2324

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