不審者=美少女

俺と先輩はデパートにあるフードコートへとやってきた。お昼時ということもあり、周りを見渡してもどこの席も満席である。


「もう少し早く来れば良かったかもしれないですね……」

「仕方ないことですよ……ってあれは……?」


俺は発見した、いや発見してしまった。白いワンピースという清楚な格好とは絶対に合わないマスクと黒いサングラスをつけて顔を隠している不審者らしき人がいるのを。

不幸にもその不審者と目があってしまい、慌てて目をそらすも不審者はこちらに近づいてくる。もしかしたら不審者ではなく先輩の友達かもしれないという考えが浮かび上がる、なので先輩に直接聞いてみる。


「先輩、知り合いとか……?」

「し、知らないですッ!あんな不審者みたいな人はっ!」


すごい勢いで顔を横に振って否定する先輩。なら俺の友達なのだろうか、という考えもあるが、不審者みたいな格好をするやつとは絶対に友達にはならない。誰だってそうだと思う。


いつも咲に守られてばっかりだが、最近は筋トレを始めた。それは自分の身を守るために始めたことだが、こうして活用することになるとは思っていなかった。俺はいつでも先輩を守れるように先輩をかばうように前に出る。

後ろをちらっと見ると先輩は目に涙をためており、俺の服の裾をぎゅっと握っている。本気で怖がっているようだった。


「先輩大丈夫だ」

「…はい」


不審者は一定の距離で止まる。


「あんた一体誰なんだ?ストーカーか?」

「………」


俺は睨みながら不審者にそう尋ねる。だが、相手は何も言わずただ立っている。


「なんか言ったらどうなんだ?」

「……あ、えっと」


その声は俺には聞き覚えがあった。俺が筋トレを始めようとした原因でもある人の声である。


「佳奈……?」


彼女の名前を呼ぶとマスクとサングラスを外し、不審者から清楚系美少女に変化した。そう、彼女は氷姫佳奈、最近転校してきたクラスメイトであり、一応俺の幼馴染だ。そして、最近命を狙われた人でもある。


「なんでここにいるんだ?というかなんであんな格好してたんだ?」

「一つずつ答えるけど、今日ここに来たのはたまたまよ」

「じゃあ、あんな不審者みたいな変装する必要もないんじゃないかな?」

「私って顔がいいじゃない?」


自分で言うんだな。確かに本人が言っているように佳奈は美少女だ。そんな美少女が夜の男が見逃すわけ無いか。


「ナンパ対策ってことか……」

「そういうこと、これなら誰も近寄らないでしょ?」

「通報されそうだな」

「そうね、通報されそうになったわ」


はあ、とため息をつく佳奈に労いの言葉をかけた。それよりももっと他に対策はあるのではないかと思ったが、言ったとしても特に何も言えないので口には出さなかった。


「それよりどうしたのフードコートに来て?」

「お昼を食べようと先輩に提案されて来たんだ」

「先輩?」


先輩は佳奈が不審者ではなく俺の幼馴染だということを知り、前に出てきた。


「私は福永って言います、よろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

「敬語は外して大丈夫ですよ」

「それなら……よろしく」


佳奈と先輩は打ち解けてお互いに握手していた。それを微笑ましく俺は見守っていた。



佳奈がさっきまでいた席で一緒に昼食を取った。その後、俺達はゲーセンにやってきた。

大きな電子音や歓声、悲鳴が耳を通る。先輩はこういうところに来たことがないのか少しビクビクしていた。小動物みたいで可愛い。


「大丈夫?」

「は、はい……こういうところにはあまり来ませんので……」

「そうなんだ」


先輩は先ほどのように俺の服の裾を握っていた。俺はなんだか先輩の父親になったような気持ちになる。これが父性というものなんだろうか……?


「先輩」

「な、なんですか……?」

「手、繋がないか?」


俺は先輩に提案する。


「……いいんですか?」

「服の裾が伸びそうだから……」

「それはすみません……では、失礼して……」


そう言って先輩は俺の手を握る。小さく傷一つない先輩の手はほのかに温かく、なんだか俺のほうが安心してくる。


「なんだか、落ち着いてきました」

「それならよかった、じゃあ行こう」

「はい!」


先輩はとびっきりの笑顔を俺に向けて返事する。その笑顔に俺は少しだけドキッとした。


佳奈から視線を感じる。それは先輩と手を繋いだときからだ。なにか言いたいことでもあるのだろう。

俺は佳奈の方に顔を向けた。


「どうしたんだ、そんな視線を向けて?」

「………なんでもないわ」

「そうか?」

「………ずるい」


俺は難聴系主人公ではないので聞き逃さなかった。どうやら俺と先輩が手を繋いでいるのを嫉妬しているようだった。


「佳奈」

「なに?」

「手、繋がないか?ほら、はぐれたら大変だから」

「………仕方ないわね、きょうちゃんは昔からどっかふらふらと行っちゃう人だから仕方なく繋ぐわ」

「そうか、ありがとう」

「うん」


俺は今、右手に福永先輩、左手に佳奈の手を握っている。これは他の人から見たら『両手に花』ということだろう。だが、俺は気にしない。なぜなら女子と手を繋ぐということは今回で最初で最後なのだからここで十分に堪能しておかないともったいないのだ。


「あ、あれ」


佳奈はクレーンゲームの方に指を指す。どうやら欲しいものが見つかったらしい。


「京介くん、あれやってみたいです」


先輩は某太鼓で叩く音ゲーの方に指を指していた。多分今まで見たことはあったけどやることはなかったのだろう。


「どっち先にしようか……」

「……私のは後でいいわ。先輩は今回始めてきたんだから楽しんでもらわないとね」

「佳奈、ありがとうな」


先輩の要望に答えて某太鼓で叩くゲームをやった。先輩はなかなかできず苦戦していたが、終始笑顔であった。


「楽しかったです!それでは次は佳奈さんがリクエストしたクレーンゲームをしにいきましょう!」


先輩はずんずんとクレーンゲームの方へと進んでいった。

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