先輩は常識人

俺は久しぶりに外に出ていた。普段の俺なら外に出ずに家でラノベやら漫画を読んでいたり、ゲームをしたりする。しかし、そんなアウトドアな俺がこうして人混みの中を突き進んでいるのだ。それなりの事情がある。


「たまたま昨日見たアニメがハマったんだよな……」


昨日何もすることがなく、たまたま見たアニメがまさかこんなに自分を動かすのを見る前の俺に伝えても信じなかっただろう。

実際食わず嫌いをしていたので、今回見る気になって良かったと思う。きっと素晴らしい作品について俺は知らないまま大人になって死んでいく、そんな未来もあり得た。


さて、こんな長々と独り言はやめて、俺はまたも歩を進める。

こうやって外に遊びに行くというのも確か小学生くらいのときで最後だったと思う。人が多くて、もう帰りたいと思ってしまうが、我慢して目的の場所まで進む。


「確か今は28巻まで販売されていたって昨日調べたが……流石に全部は買えないな……」


俺は歩きながら財布の中を除く。そこには一万円札一枚、千円札一枚、小銭が少しくらいで全部で約一万二千円は財布に入っている。これが俺のお小遣いである。最近は特に何も買ってないので溜まってはいるが、俺の性格上、好きなものにはとことんお金をつぎ込む主義なので、今後の自分の決断力に身を任せることにする。


目的地である書店に着き、俺は悠々と中へと入っていき、他の本には目をくれず目的のラノベを求め突き進む。


堂々と大量のラノベが置いてある戸棚に仁王立ちをし、目線でZを描くように探す。


俺はこんなふうに見つけ出すよりも探すことに楽しみを置いている。今回の目的だけでなく、純粋に気になるものもあるのでこの工程は一番の楽しみだ。


「……えっと、あ、あった」


その本を取ろうと俺は手を伸ばす。だが、俺は知っている。


こういうときは運命の女の子が俺と同じ本を取ろうとしてうっかり手が当たるというシュチュエーションが起こるということを。


本を取ろうとして誰かと手が触れた。

先ほど考えていたのは冗談だったのだが、本当に起こるとは思わなかった。でもここにいるのは男性が多く、多分触れたのは少年とかだろう。ここで期待するとショックが大きくなるので俺が触れた人はおっさんと予想しておこう。


横を見ると、そこには……


「あ……ごめん、なさい……」

「え、あ……はい、自分もすいません……」


自分よりも少し小柄な娘であった。いや、その娘は台に乗っており、俺からは少し小柄に見えた。実際は俺の腹辺りだろう。


「あ、あの……あなたも、これ……好きなんですか?」

「あ、えっと……昨日アニメ見たらドハマリしちゃって……」

「偶然ですね、私もそうなんです……!」


俺が言うとその娘はぴょんぴょんとはねながら嬉しそうにしている。多分同士がいて嬉しかったのだろう、その娘の周りがなんだかほわほわしている。


「アニメはどこまで見たんですか……?」

「一期は見たんだけどなんか二期が見れなくて、買いに来たってわけ」

「そうなんですか……?ならどうぞ」

「え、いいの?」


少女は俺に本を譲ってくれるそうだ。俺はお言葉に甘えさせてもらった


「でも君はこれが読みたかったんじゃ……?」

「はい、でも私は二期は見たんで少し原作が呼んでみたくなっただけなので……」

「……なら、俺が読んだら君に貸すよ」

「い、いいんですか……!?」


俺の提案に目を輝かせている少女。もし俺がこのまま去ってしまうのはなんか罪悪感を感じる気がしたのでその提案をしたが、彼女は賛成のようだった。


「あれだったら、君が持っててもいいから。俺読み終わったらしばらくは読まないから本棚にずっと置いておくくらししかしないからさ」

「そ、それはちょっと……」


まあ、他人が買ったものを無料でもらうのは気が引けるだろう。しかも俺と彼女は赤の他人であるので当然だ。


「じゃあ俺買ってくるね」

「はい……!」


俺が買い物した後少女と会った場所に戻ったが、まだその少女はいた。俺の姿を見ると小さく手を振ってくれる。


「早かったですね」

「ただ買うだけだからね」


なんだろう、俺今女子とすっごいラブコメしている気がする!!知らない娘だけど!


最近の俺は美少女が近くにいるのに関わらず全然ラブコメ展開にはならずバトル展開のほうが多いと言ってもいい。俺にもラブコメ展開が来るのだろうか?ついに来てしまうのか!?

……という童貞によくある勘違いをしてしまうので俺は落ち着け。大丈夫……この娘もアホさきとか変質者佳奈と同じ感じの残念少女だ、きっとそうに違いない!


「あ、あの、もしよろしければ……」

「あれ?しなっちゃんだ」


少女は俺になにか伝えようとすると学校で馴染みのある声が聞こえる。


「なんで咲さんがここに?」

「しなっちゃんをたまたま見つけたから尾行してた」

「……ストーカー」


黒く艶のある髪をさらし、外出のためかオシャレな服装をしている咲に出会う。どうやら彼女は殺し屋からストーカーにジョブチェンジしたようだった。


「あ、だ、誰……?」

「この大和撫子そうな女子は大和咲さん、こんなビジュアルで結構アホだよ」

「ひっど!?」

「実際事実じゃん」

「………あとで覚えておいてね、あなたは何ていうの?」

「私は福永智恵美ふくながちえみといいます……」


そういえばさっきまで仲良く話していたが、自己紹介していなかったな……


「福永さん、俺は……」

「知っていますよ、品川京介くん」

「福永さんももしかして……」

「?どういうことですか……?最近学校で噂になっているんですよ」

「福永さんって同じ学校だったんだ……」


改めて教えてもらうと福永さんは俺等よりも上の2年生、つまり先輩ということだ。容姿で判断してしまうと小学生と言っても納得できてしまう。


「ふふ、実は先輩なんですよ」


えっへんと胸を張る福永先輩は何かを成し遂げて自慢げにしている小学生にしか見えない。だが、小動物みたいで可愛い。


「しなっちゃん、たまたま会ったんだから一緒に回らない?」

「あ―……えっと……ごめん、咲さん」

「なんかあったんだ」


俺は福永先輩に聞かれないようにコソコソと咲の耳に近づいて話す。


「実は俺今、ラブコメイベントが発生しているんだ」

「はあ……」

「さっきも咲さんが来なかったら、多分福永先輩に誘われてた」

「それで?」

「咲さんには悪いけど俺だってラブコメしたいからごめん」


「急にコソコソと話してどうしたの?」

「いえ、なんでもないです」

「ああ、敬語はなくてもいいです。と言いながら私は敬語を使っていますが、これはたんなる癖なので……」

「ありがとうございま……ありがとう」


敬語を外すと先輩はまたもや笑顔になった。かわいい。


「そういえば、さっきなんて言おうと思っていたんですか?」

「あ……えっと……ちょうどお昼時なので……」


さて……


「お昼一緒しませんか……?」


ようやくのラブコメイベントの開幕だ。

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