ゴリラ様は守りたい

「だ、誰だあの人はっ!?」

「モデルみたい〜!!」

「誰かのお姉さんかな!?」


わあわあと騒ぎ始める野次馬たち、その黄色い歓声を聞いて葛城母はもっと笑顔になった。


「あらあら〜、お姉さんみたいですって〜」


さっきまでかっこよかった葛城母は今ではほわほわしている。


「実際はさんじゅ……」

「京介くん?女性の年齢は言っちゃだめよ?」


葛城母はギリギリと音を立てて指で輪っかを作る。俺はそれを見てすぐに口を閉じる。


「さてと、あの子よね?」

「そうっすね」

「いつも私に頼ってたら駄目よ?」

「わかってますって」


確かにピンチになったら飛んでくるのでいつも頼りにして呼んでいたがいつも来れるわけではない。今度から体鍛えるか……


「俺頑張ります」

「そう?何を頑張るかわからないけど頑張ってね」

「ねえっっ!!?早く助けてよぉぉ!」


佳奈にとどめを刺されそうになっている咲は泣きながらこっちに呼びかける。やれやれとでも言いたそうな葛城母は俺が瞬きをした瞬間横から居なくなっていた。


「はっや」


その後は佳奈を首とんして気絶させた。まさに強キャラ、いや強ゴリラ。


「これでいいかしら?」

「オッケです、これお礼です」


俺はお礼にと葛城母に千円渡す。だが、葛城母は微妙そうな顔をして受け取ろうとしない。

高校生なので千円は高額だと思うのだが、大人な葛城母はそう思っていないのかもしれない。


「流石に千円はちょっと……」

「……それなら五千円で」

「金額じゃなくてね?こんど家にあそびに来てほしいな?」

「………」

「無言で一万円出さないで?」


俺は渋々了承した。



「それじゃあ私は帰るわね、約束忘れないでよ?」

「わかってますよ、後で行きますよ」


葛城母が収めてくれた事件は解決して葛城母は帰り、生徒たちも教室に戻り始める。俺もそれに習い教室に向かおうとしたが、腕を掴まれる。


「私のこと忘れてない?」

「咲さん、どうしたの?」


咲はジト目でこちらを見ている。なにか不満でもあるのだろうか?


「私全力で頑張ったのに何も無いの?」

「実際咲さんが撒いた種でしょ?俺はそれに巻き込まれただけだが……」

「それでも頑張ったんだからねぎらいが必要だと思うの!」


美少女とお話するのは楽しいのだが今は全然楽しくなく、むしろ面倒くさく早く教室に戻りたいと思ってしまう俺はおかしいのだろうか?いや正常だと思う。

せめて地面に倒れている咲を起こしてやることにした。


「……おも」

「あ――――ッッ!!!女の子に言っちゃいけない言葉言った―――ッッ!!」

「……めんどくさ」

「ひっど!?こんな美少女に絡まれてんだからもっと嬉しそうにしてよ!?」

「ワーイウレシイナ――」


適当に咲の相手をしているとその隣で意識を失っていた佳奈が目を覚ましたようだった。俺と咲に気づくとキッと睨んできた。主に咲の方。


「なんだよ」

「………別に」

「しなっちゃんこれはあれだよ!嫉妬、ってやつだよ!」

「あ――こんなアホに絡まれてるよりも私に構えってことかな?」

「アホって言った――ッ!!アホって言ったほうがアホだもん!」

「小学生かよ」


またも面倒なことになった咲をなだめていると佳奈と目が合う。その目は朝の時と同じ海のようにきれいな青色の目をしていた。


「きょうちゃんはそこのアホのサポート係しかやらないの?」

「まあな、咲さんのサポートしながら他の人のサポート係をするのは骨が折れるからな」

「でもきょうちゃんは結構なんでもできるじゃん?」

「………そうでもないな、咲さんは佳奈が思っているよりも初心者だ」

「知っているわ、さっきの戦闘でわかる」


そういえば佳奈は咲よりも殺し屋歴では先輩なのでそこら辺は俺よりも詳しいのだろう。


「なんでさっきから立ち上がらないのか?」

「動けないからよ」

「保健室でいいか?」

「あら、運んでくれるの?アホはどうするの?」

「置いていくかな、二人は流石に運べないし」

「ちょっと?私が一番動けないんだから先に運んでよ」

「私だってきょうちゃんが言う強キャラ?っていう人にやられたんだから、一番重症なの」


俺がどっちを運ぶかという小さなことで二人は喧嘩を始めた。


「葛城くんのお母さんにやられたって言っても首とんされてたからそんなダメージないじゃん!」

「ぐっ……」

「私は朝からずっと走っていたし途中でしなっちゃんを背負っていたから疲れがすごいの!」


佳奈は悔しそうにしながらも咲の言っていることが本当のことなので言い返せなさそうだ。


二人がちっちゃな喧嘩をしている時、俺はいいものを発見した。俺はそちらに向かった。


「ちょっといいか?」

「ん?なにか用か?」

「それ貸してくれない?」


俺はジャージを来ている男子生徒の持っているものに指を指した。


「台車?いいぞ」

「ありがとう」


俺は男子生徒から台車を受け取り、ゴロゴロと音を立てながら喧嘩している二人の下へと戻る。台車は人ひとりくらい運べる程度の大きさである。


「ねえ、しなっちゃん」

「それってなにかしら?」

「台車だけど」

「それでそこの女を運ぶの?」

「はあ?それはあんたでしょ」

「じゃあ二人乗れ」

「「え?」」


俺の発言に二人は口を開けて静止した。台車は人ひとりくらい運べる程度の大きさdなのに二人乗れと言われたら俺もそうなる。せめてどっちかおぶれと。


「喧嘩するなら二人を無理矢理にも台車に乗せて運ぶ」

「「………はい」」

「じゃあ佳奈は台車に乗れ、咲さんはおぶっていくから」

「ふっふーん!やっぱり私の従者なんだからその主人を運ぶのは当たり前よね!」

「ぐぬぬっ……!!」

「俺は咲さんの従者じゃないんだが……」


佳奈を台車に載せようと腰を下ろそうしたそのとき、一人の人影がこちらに向かってきていた。


「言われてきたが……またおまえか」

「早坂先生」

「今度は何をやらかしたんだ?というかなんで人が二人倒れているんだ?」

「………ブレイクダンスして二人とも疲れて倒れちゃったんですよ」

「なにそれ、私も見たかった……」


白衣を来ており、谷間が見えるほどに服装を崩していて高校男子にとって目の毒な格好をしたその人は保険室の先生でもある、早坂明美はやさかあけみ先生である。自称20歳であり、お酒とタバコが好きな先生だ。


「先生、とりあえずどっちか保健室におぶっていってくれません?」

「えー……来なきゃよかった」

「まあここは可愛い生徒のお願いということで」

「……仕方ない仕事するか、また怒られるのは嫌だからな」

「また怒られたんですか?」


早坂先生はいつも保健室にいて怪我した生徒を応急処置したり、なにか相談にのったりするような模範的な先生とは程遠く、毎日タバコ杯がタバコで満タンになるほど吸っていたり、酒の空き缶が邪魔な程に置いてある。新聞部では先生の生活習慣についての記事をまとめられていたが、ほとんどの時間がタバコと酒で埋まっていた。


「程々にしないと早死しますよ?」

「ああ、大丈夫。よっと」


先生は咲を米俵を持つように肩に担ぐ。


「じゃあ、先行ってるから早く来なよ」

「なんで私っ!!?」

「じゃあ、佳奈乗ってくれ」

「無視ってひどくないっ!?」


文句を言いながら咲は運ばれていった。

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