第3話

 清々しい青空の下で、卒業証書を手に写真撮影をするイメージが強かったわたしは、朝から土砂降りの窓の外を見て落胆していた。

 3月15日。わたしが通う小学校の卒業式の日。4年生のわたしたちは、会場の準備をして式に参加し、6年生を見送るという仕事がある。

 卒業式の日がまさかこんなに天候が悪くなるなんて、先輩たちもスッキリした気分で卒業できないだろうなぁ。

 体育館に整列している木の椅子の間を縫って、じぶんの椅子に座る。3月といっても少し肌寒い今日は、ひんやりとした椅子が体温を奪っていくようで気持ち悪い。

 小学校を早く卒業したいと思ったことはないけれど、こうやって卒業式に参加することになった今、ほんの少しだけ中学生に憧れを抱いてしまう。

「今日は袴着てる人いるのかな?私も卒業式では袴着たいなぁ」

 斜め後ろに座っている悠花に声を掛けられる。1年生の頃からずっと同じクラス、更にいえば保育園も同じだった、わたしの大切な幼馴染。

「悠花は着物似合いそうだよね。わたしはジャケットにスカートがいいなー」

「まぁね、私はなんでも似合っちゃうからなー。智恋も一緒に袴着ようよ、私と選びに行こ」

「まだまだ先の話だけどね......悠花の気が変わらなかったら袴にしよっか」

 半笑いで返事をしたけれど、案外悠花も笑っている。

 智恋の意志は固そうだな〜、なんて笑って椅子の背にもたれる悠花を見ていると、不意に不思議な気持ちになる。

 わたしたちが卒業する時、まだこうやって仲良く日々を過ごしているんだろうか。いくら幼馴染だからといっても、いつかは離れ離れになる時が来てそのまま一生会えないなんてこともあるだろうし。小さい頃からずっと一緒にいたから、感覚が麻痺しているんだけなのかもしれないけれど。



 卒業式は無事に終わり、6年生の最後のホームルームの時間がそろそろ終わるという頃、在校生のわたしたちは校舎の廊下に立っていた。ホームルームが終われば、卒業生はいよいよこの学校を旅立つことになる。盛大にお祝いするために、在校生は廊下や昇降口でお見送りする。

 ひんやりとした廊下でクラスメイトとお喋りをしていると、チャイムが鳴った。卒業生にとって、小学校の最後のチャイム。先輩たちは、どんな気持ちで聞いているんだろう。

 教室から出てきた卒業生とその保護者がぱらぱらと廊下を歩いてくる。

 思っていたよりも、泣いている人は少なかった。中学校もほぼ同じメンバーで過ごすからか、卒業に対して感慨深さがあるようには見えなかった。小学校のすぐそばに中学高校があるから、新しい環境になっても顔触れはそんなに変わる事がないだろうな。

「6年生ってさ、すごく大人に見えるよね。私が1年の時なんか、4年生も大人っぽく見えたのに今は全然そんな感じしない」

 わたしより断然大人っぽい彩夜乃ちゃんがそう言った。隣に立っているとわたしとは頭一つ分も身長が違う。わたしの身長は平均で彩夜乃ちゃんはそれよりかなり高く、落ち着いた雰囲気も相まって、とてもじゃないけれど同い年には見えない。

「わたしはまだまだ子どもだけどなぁ。あやちゃんは大人っぽく見えるよ」

「え、そうかなー。見た目だけなら6年生に混じってても分かんないかもね」

 照れ笑いをしながらわたしの肩を叩く。こうやって話していると、たしかに年相応の女の子だと思える。

「ねぇそういえば聞いた?涼多くんの好きな人」

 唐突に話題が変わって、わたしは一瞬思考が停止した。涼多くん......って、同じクラスの高島涼多くんのこと?

「知らないけど......なんで急に?」

「え、やっぱり知らないんだ。涼多くんの好きな人、ともちゃんらしいよ」

 え、わたし?

 耳を疑った。たしかにわたしは知らなかった。というか、涼多くんとはそんなに話したことがないし、同じクラスとはいっても今まで関わりがなかった。

 どうしてわたしなんだろう。








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