第2話
部活動を終えて、わたしたちは各々帰路についた。
まだ空が明るい夕暮れの中、自転車を押しながら隣を歩く悠花が呟いた。
「私のタイプじゃなかったなぁ、若林くん」
「こら、そういうこと言わないの!澪もそんな感じのこと言ってたけど......」
本日転校してきたフルート奏者の男の子、若林くんは、見事に悠花の期待を裏切った。いわゆる可愛い系男子という部類なのだろう彼は、誰がどう見ても一目では少年だと分からないほどに中性的な容姿をしていた。
本校は今年度から男女共に、スラックスとスカートを自由に選べるようになったのだが、転校してきた若林くんは前の学校の学ランのまま。制服のおかげで男子生徒である事がようやく分かる程に、儚い雰囲気を持った人だった。まあ簡単に言えば、女の子が欲するものを彼は大体持っていた。
「ねーえ、そういう智恋はどう思う?若林くん、タイプだった?」
問われて、咄嗟に答えることができなかった。
悠花はストレートにものを言う性格で、わたしとは違う。曖昧な返事ばかりしているわたしにも、彼女は変わらず直球に質問してくる。
誰も傷つかない答えを返すべきだと思った。
「わたしが好きなタイプとは少し......?違ったかも。でも、結局は好きになった人がタイプなんだよ」
そう。綺麗事に聞こえるかもしれないけれど、結局のところ好きになった人がタイプなのだと思う。わたしが勝手に結論付けているだけであって、実際はそうではない人だって沢山いるし、理想を追い続けてそれに見合う相手が見つからない場合もあるだろう。
「なるほどねぇ。好きになったタイプっていうことは、まだ好きな人いないんだ?恋多き乙女って感じがするけど」
少しニヤついた顔で悠花がこちらを見る。わたしはどう答えようか、少し考えた。
「......いない訳じゃないよ」
あの噂を知らない悠花ではないだろうけれど、敢えて聞いているのか、それとも意図的にわたしにそう答えさせたかったのか。
わたしの返事を聞いた悠花がはたと足を止めた。不意に彼女の方を見やると、夕焼けに染まった顔もこちらを見ていた。くりっとした両眼がぽやんと開かれている。
「いたんだね、好きな人。ねえ、小学生の時さ、噂になってたんだよね......涼多くんのことなんだけど」
やっぱり悠花は知ってたんだ。わたしたちが小学生の頃だから、もう2年程前のことになる。当時、学年中に広まっていたらしいその噂は悪いものではなかったけれど、気分が良くなるかと聞かれたらそうでもないような内容だった。けれど、わたしが舞い上がったのは紛れもない事実で。
2年前、わたしたちは小学6年生だった。その噂が広まったのは、そこからさらに遡った小学4年生の頃のこと。
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