嘘がつけない君だから

@kk_tomaChi8

第1話

 好きな人の行動を、ついつい目で追ってしまう。心に秘めた恋を隠すようにちらりと彼から視線を外せば、たちまち世界は色褪せてしまう。

 こんなにもわたしの心を鮮やかに染めるのは、きっと世界中を探し回ったって、彼しかいないであろうことは分かっている。

 過去の恋愛歴なんてどうでもいいと思えてしまうくらい、そしてこれは初恋なのではないかと勘違いしてしまう程、純粋に人を好きになるのは初めてだった。

 今までお付き合いしてきた人でさえ、こんな感情は抱かなかったのに、どうしてわたしの心は落ち着きを知らないのだろう。

 彼もまた、同じ気持ちでいるだろうか。



 夏に向けて、若葉が生い茂る季節。

 五月といえば、新学期が始まってクラスのみんなも新しい環境に慣れ始める頃だ。

 中学校二年生になった今、わたしを取り巻く環境は、数ヶ月前と比べても、さほど大きく変わりはない。

 部活動で後輩ができ、少しは先輩らしく振る舞おうとする同級生が何故かおかしくて、失礼ながらも笑ってしまう。いつもの小突き合いが始まりそうな雰囲気を、隣で見ていた友人が止めた。

「今日からまた新しく部員が入るみたいだよ。転校生だってさ、しかも二年生」

 小学校を卒業したばかりで、新しい環境に慣れていない新入部員をまとめるのは先輩の仕事だ。

 自分たちも先輩になったのだと自覚するには、まだ日が浅すぎた。

「何?経験者なの、その人」

「そうみたいだよ。先生から聞いた話では、前の学校でフルートやってたみたい」

 フルートねぇ。いきなり花形の新入部員か。

 わたしの学年は人数が少ないから、どの楽器にしても人が増えるならありがたい。今いるフルートパートの子と上手くやってくれるといいのだけれど。

「それにしても、フルート男子って珍しくない?この辺の学校にはいなかったよね」

「フルート......男子?え、男の子なの?」

「そうそう、イケメンだったらいいなぁ」

 そうぼやくのは、幼馴染の悠花ゆうか。初対面で失礼なこと絶対に言わないでよね。

 わたしとの小突き合いを止められたみおが意味深な視線を送ってくる。まあ言いたいことはなんとなく察してはいるけれど......。

 悠花が面食いなのは澪もわたしも知っている。ただ、誰とも付き合った事がないという。幼い頃からずっと隣にいたのだから、恋人ができればすぐに分かるだろう。

 それに、わたしでさえ少し寒気がするくらい、悠花は他人の本性を見極めるのが上手い。だからこそ、今まで恋人がいなかったというのも納得できる理由だ。

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