Ironic gum
星七
また失敗した……
「やぁ、"また"ボクに会いに来たのかい?」
限りなく白紙で埋め尽くされた世界で、退屈していたところ人が落ちてきた。それは見知った人物だった。
「ちがう。出来れば、お前の顔なんか二度と見たくもない。」
「それは悲しいねぇ……しくしく……」
ボクが泣いているフリをしても君は見てくれない。君は顔を下に沈めて俯いたまま。最近、君はずっとこの調子だ。こちらとしては君に早く本調子に戻ってもらわないと困るのだが…………
「ま、それは置いといて……どうしたんだい? そんなに落ち込んで…………」
「…………落ち込んでなんかない」
「また、世界を救えなかった事を悔やんでいるのかい?」
「………………」
君の身体がピクリと動く。
──ふぅん、やっぱりか。
君は誠実で、勇敢で、どんな人にも寄り添える。それこそ"勇者"と呼ばれるような人だ。ボクが「誰かこちらの世界を救ってくれませんか」と、聞いた時にデメリットもメリットも聞いた上で一番に手を挙げたのも、君だった。
でも、そんな君にも大きな欠点があった。抱え込み癖だ。君は世界を救う事を勇者の責務と捉え、1人で抱え込んでしまう。結果として今があるのが現実だ。
「はぁ、コレだから生真面目君は……もぅ……」
「いいかい?君は"再再"なんて強いスキルを持っているけど、勇者じゃ無いんだ。もっと仲間に頼りたまえ。」
"再再"──外部からの攻撃により生命が失われると、また同じ時を1から繰り返すと言う能力。
君を異世界から連れてきた理由の一つでもあり、君の欠点が大きくなった要因の一つでもある能力だ。
「……でも、私は選ばれたんだ。私が居なきゃ世界は救われない!!」
「──そこだよ。大事なのは"そこ"。君と言う変数がいるだけで多くのものに影響を与えられるんだ。大事なのは能力じゃ無い。」
「嘘だ!!私は2回も失った!!大事な……大事な仲間を……!!」
君が視線をあげたことで君の顔が目に入る。やっとのことで見れた顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。表情は見えない膜に包まれたようでわからない。
「はぁ……君の視点はちっぽけだね。もっと俯瞰してみておくれ。」
「君と言う存在が生まれた影響で、ルルネの村は正式に"村"となったんだ。君がいなけりゃ、あそこはただの民家の集合体。王国の後ろ盾なんてなく、すぐにでも滅ぼされていたさ。」
君は両手で顔を拭うと、一呼吸置いて口を開いた。
「…………思えば、私が生まれた時に異様な喜ばれ方をしていた気がする。」
「ね?君と言う存在が大事なんだよ。」
「それに……君はもっと仲間に"頼った"ほうがいい。君の仲間はもっと君の"役に立ちたい"と思っていたよ。」
「……そっか。まだ、みんなを救える可能性はあるのか──」
君の顔に表情がつく。ふんわりと花が芽吹いたような柔らかい笑顔だ。
「ごめん、神さま。私、神さまに八つ当たりみたいな事言った。」
「いやいや、君には"期待をしている"からね。心のケアだっていつものお礼だと思ってくれて良いよ。」
「──うん、ありがとう。神さまのおかげで気が楽になった。」
君はそう言うと自分の頬を強く叩き、何かを決意したように凛々しい顔つきになった。
「神さま。私、次こそはみんなを助けてみせる。だから、そこで見守ってて。」
「あぁ、わかったよ。君を"いつまでも見守っておく"としよう。」
君の為に、楕円形のブラックホールにも似たような塊、"ゲート"を開く。
「それじゃあ、行ってくる!!」
君が右手をゲートに近づけると、ポリゴン状になりそれに吸い込まれていく。そして、手、肩、顔、と順々に君の姿消えていき、やがてその場から消失した。
「ふぅ、あの子は行ったか。」
ゲートを閉じ、そこは再び真っ白な無限に広がる空間へと姿を戻す。
────さて、偽善は終わりだ。
「今回も、"同じかな"」
前回、あの子は自殺をした。ボクの発言を信じすぎて、自殺をした。あの子がひとりいるだけでは世界に影響は及ぼせないと言うのに、自分の命を大切にして、仲間の命を失わせた。そして、生きがいを失ったあの子は自殺をしたのだ。
"再再"、あれにはあの子にすら知らない制限がある。それは記憶が保持できるのは2回目の繰り返しの時まで、と言うものだ。
その制限に気づいて、一度はあの子に失望した。だが、ボクがあの子にかけた言葉によって、あの子の行動、死因が変わる事に気づき、あの子で色々と実験をする事にした。
今は同じ発言でも声の抑揚が違えば行動は変わるか、と言う実験をしている。n回とデータをとっているが、未だに変化は見られない。
今日は珍しく、多くの言葉を強調させてみたのだが、さほど未来に影響するとは考えられない。
「はぁ…………」
Ironic gum 星七 @senaRe-
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