棘とあなたとレモネード

@second2

〜プロローグ〜

私の幼少期は、思い出したくもないほどひどいものだった。父親は私に一切の関心がなかったし、母親には育児を放置された。今では優しい親戚の人の家に住まわせてもらってるから幸せだけどさ。だから、私は何があっても昔のことは思い出さないようにしていた。でもこの夏、どうやらそれは破られそうだった。なんと親戚のおじさんが、家ごと(もちろん私も)私の地元に引っ越してしまうらしいのだ。まあ、それだけだったら全然いいんだけど(おじさんからもらった恩はこんなことじゃ消えない)、問題はその先。高校生である私はもちろん転校するんだけど、転校先の高校の中に、なんと“あの人”がいた...

ボロボロですぐにでも死んでしまいたかった私が、ギリギリのところで踏みとどまれた理由。あの人は、ずっと私に優しくしてくれて、行く場所のない私をあの人の家で匿ってくれた。そして、天使のような優しさと、天使のような整った顔立ち。私は、あの頃あの人に恋をしていたのだ。その気持ちは今でも、変わってない。


そんなことを思い返しながら、今私が立っているのは志浜高等学校。今日から私の、転校先での初めての高校生活が始まる。

期待と少々の不安を抱えて、私は校門をくぐった。

「れのくん、今どんな人なのかな」

優泊れの、それが“あの人”の名前だった。

優しい彼にぴったりの、素敵な名前だ。


なのに。


「...何?」

「え、あ、あの...」

「用がないなら、話しかけてくんな。めんどい」

「....」

天使だった彼の姿は、

その面影すらもうどこにも残っていなかった。

「...うそぉ」

これは、転校生である私と、かつて天使のようだったはずがが豹変して悪魔のように刺々しくなってしまった男子との、ちょっと、いやかなりおかしな、青春の物語である。

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