第8話 ため池
二人がバスケットコートへ向かうのを見て、僕とラナは神社の方へ向かう。涼子がこっちの方をチラッと見て何か二人に聞いているのが見えたけど、二人は旨く誤魔化しているみたいだった。
コートをぐるっと回ると神社の境内に入っていく。境内には僕の街の奥宮と同じで杉の木が真っ直ぐに伸びている。でもなんとなく奥宮と比べて狭い感じもした。
「やっぱり祠の形になってるのかな?」
「そう思うわ。一応そういうシステムって周りに擬態させているから、その当時の違和感のないものにすると思うの」
「じゃあ、神社ならやっぱり祠なんだ」
僕たちは一生懸命に境内を歩き回るがなかなかそれっぽいのが見つからない。
「あ、あれは……?」
神社の杉林の中を歩いていると、参道の方になんとなく古めかしいお地蔵さんが並んでいるのが見えた。
コチラからは後ろ姿だけど、石の土台部分も結構古い感じがして、奥宮の祠っぽい感じがしないわけでもない。
「うーん。行ってみようか」
「そうだね」
僕たちは、参道へ向かって歩いていく。
参道は神社の社から外まで、鳥居などがある真っ直ぐな道で、石畳が敷かれている。その道沿いに並んでいるお地蔵さんだ。後ろから見ると六体ある。
「でも、ちょっと違うかも知れないわ」
「なんで? 結構古そうじゃない」
「神社は神道だけど、お地蔵さんは仏教でしょ?」
「……何が違うの?」
「えっと、宗教が違うのよ」
「違う宗教なのに一緒にいるの? え? なんで?」
宇宙人に日本の話しを教わるなんて、考えてみればちょっとおかしい話だけど。ラナの話を聞くとなんとなく納得できた。
日本の家には神棚と仏壇があるから、神道と仏教がかなりごちゃごちゃに合わさっているという。そういった神仏混合の考えが始まった時代や、そもそもお地蔵さんも奈良時代以降の物らしい。
ラナの星の人たちが転移装置を設置したのは千五百年前で、だいたい飛鳥時代らしく、だからちょっと時代的に違うだろうという話だった。
うん。飛鳥時代とか平安時代とかは知ってるけど。やっぱりすごい昔の話なんだなって思う。
それでも他にあまりそれっぽところが見つからないだけに、お地蔵さんも念入りに確認していく。
「……やっぱり、違うわね」
「そっか、じゃ、参道の向こう側を探そうよ」
「そうね」
今まで、バスケットコートの方から入って参道の北側をずっと探していた僕たちは、参道を超えて南側に行く。
こっち側は少し狭い気がする。
その理由は、すぐに分かった。神社の敷地から見えた土手を登ると、すぐ下には大きな池があった。
「……池ね」
「ため池っていうんだ」
「ため池?」
「うん。農業に使う水を貯めておく池なんだ。塩田町は昔から水不足に苦しんだって学校で教わったんだよ。だから、こういうため池がいっぱいあるんだって」
神社の敷地のすぐ脇に、大きな人工池が作られていた。なんとなくその形と場所から神社の敷地をだいぶ削って池の大きさを確保したような感じがする。
僕の住む丸子町にはこういったため池は無いけど、上流の山からの小川をダムにして少し農業用に水を確保してあると聞いていた。
「……この池の下にあったりしたら?」
「参道の北側の大きさを考えると、南側がもっと広かったのは確かね」
「うん……」
奥宮の祠みたいに、簡単に見つかると思っていただけに僕はショックを受けていた。気の利いた言葉も出てこなくて、ただぼーっと、池を見つめていた。
静かに風が吹き、水面が小さく揺れている。
重い空気の中、僕は必死に何か気持ちを変えようと周りを見回す。
……あれ?
「ラナ、ちょっと」
「え?」
僕は少し離れた土手沿いに、小さな木の屋根が見えるのに気がつく。一瞬お稲荷さんかと思ったけど、鳥居とかはない、ただ、その前にあの奥宮の祠にあったのと同じ石灯籠が立っているのに気が付いた。
その瞬間僕は駆け出していた。すぐラナも後ろを走ってくる。
「はぁ。はぁ。この石灯籠……」
「……うん」
小さい木の建屋の中には、あの祠が見える。雨風で風化しないようにこうして建屋で覆っているのだろうか。
僕は石灯籠の穴、火袋の中に手を突っ込む。
「あれ?」
だけど、僕の手は見えたままだ。中の丸い石が手に触れる。その感覚は奥宮のそれとは違い、ザラザラと風化した普通の石に感じる。そして、それを掴んで捻っても動かない。
「なんでっ!」
僕は焦ったように両手を突っ込んで丸い石を動かそうとするがビクトもしない。
「栄太……」
「ほら、ちょっと古いから砂とか詰まってるんだよ。これが動けば……」
「ううん。違うの」
「違うって。何が?」
「……これはもう、動いてない」
「……え?」
「下を見て。多分元々ここにあったわけじゃないと思うの。多分池を作る時に動かしたんだわ」
ラナの言うように下を見れば、石灯籠も祠もコンクリートの土台の上に設置してある。奥宮のそれとはぜんぜん違う。
「でも……」
「装置は、地力を吸うために設置場所も大事なの。 残念だけど……」
「そんな……」
なんで池なんて作ったんだ!
僕は、なんとも言えないムシャクシャした気持ちで、祠の奥に見える池を見つめていた。
……
……。
コートの方に戻ると、大斗と隼はバスケットコートの隅のベンチで涼子の仲間たちと話し込んでいた。
きっと僕は相当凹んだ顔をしていたのかもしれない。近づいて来た僕の顔を見て隼がスッと立ち上がる。
「ああ、悪いな。そろそろ俺達行かないと」
「え? もう?」
「ほら、夏休みっていっても宿題やらなんやらいっぱいあるじゃん?」
「ああ……。そうだね」
涼子も色々察したようだ。大斗も頃合いと観たのか立ち上がり、涼子や他の子たちとハイタッチをしていた。
そんな中、涼子が隼に話しかける。
「なあ。隼」
「なに?」
「……アンタもバスケクラブ入らないのか?」
「うーん。塾とかあるからなあ。あまり時間が無いんだよ」
「そう、なんだ……」
隼の答えに涼子が少し寂しそうに返事をする。そんな涼子を見て大斗がニヤリと笑う。
「あれ? 珍しいじゃん。涼子。隼が気に入ったの?」
「は? な、何言ってるんだ。アタシは隼があんな上手いのにバスケやらないのが勿体ないって言ってるだけよ」
「ふーん。それだけなんだ」
「そ、それだけよ」
大斗のからかう様な言い方に涼子が起こったように答える。それを見ていた隼がなだめるように間に入る。
「まあまあ。でも俺もバスケは嫌いじゃないぜ」
「そ、そう?」
「おう。またたまに来るからさ、そしたら今日みたいに3ON3でもやろうぜ」
「そ、そうだな。また来いよ」
「おう!」
隼の言葉に、涼子が少し嬉しそうな顔になる。なんだか、僕たちが転移室を探している間に随分と仲良くなっているようだ。僕も今度はバスケに混ぜてもらおうかなって、ちょっと思うくらいに。
そして、俺達は涼子たちに別れを告げて、また元来た道を自転車を漕いで帰っていった。
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