第7話 前宮 1

 二人は石灯籠の仕組みをみて驚き、転移室の中に入るとさらに驚き、周りを見回していた。僕はもう二回目なのでちょっと余裕な感じで、驚く二人を見ていた。

 隼は、宇宙人の機械をとても興味深く。そして、大斗はまだボーッとラナの事を見つめていた。


 そしてラナは、僕にしたのと同じように自分がどうしてここにいるのかの説明をする。


「本宮が違うなら、やっぱり前宮にその施設があるってのは予想できるよね」


 話を聞いて、隼はすぐに僕と同じ結論になっていた。


「信じてくれるのね?」

「こんなものを見せられればね。流石に嘘とは言えないよ」

「ありがとう」


 そして、早速前宮の方に向かう事になる。


「えっと。そうか。ラナは自転車無いんだよね」

「うん、歩きだとちょっと時間がかかるって栄太が言ってたわ」


 すると突然、今まで黙っていた大斗が声を上げた。

 

「だったらっ。家の自転車使っていいよっ!」

「え? 良いの?」

「う、うん。家さ、売るほど自転車あるからさ。ラナに貸せるよ。ちょっと前まで俺が乗っていた自転車なら、今あるんだ」


 そうか。確かに売り物を借りるのは少し難しい気はするけど。大斗の自転車なら大丈夫だ。僕たちと比べても一人どんどんと大きくなっていく大斗は、小学校低学年の頃に親からもらった自転車も、もう小さくなって、もう少し大きい自転車を今年買ってもらっていた。


 大斗には小さすぎる大きさになってしまったとは言え、元々身長のある大斗が乗っていた自転車だ。そこまで小さいわけじゃないし、ラナにはちょうどいいかも知れない。


 ラナも、噂の人力のマシンを貸してもらえるということで、少しうれしそうにしている。



 すぐに大斗の家に行くと、大斗は手慣れた感じで自転車のサドルをラナに合うように調節してくれる。大斗の自転車屋は、レンタサイクルもやってるのでヘルメットも貸出用のがある。それをラナが付けて準備は完了だ。


「でも、ラナは自転車乗るの始めてじゃなかった?」

「え? ラナ。乗ったこと無いの?」


 僕の言葉に大斗が驚いたように言う。しかし。文明の進んだ宇宙人ならそれが普通かとすぐに納得したようだ。


「皆が乗ってるのを見たから、大丈夫だと思うわ」

「見るのと乗るのは違うよ?」


 こともなげに答えるラナに僕はちょっと心配になる。


 でも、ラナは最初だけ少しふらついていたけどすぐに問題なくそこら辺をグルグルと回り始める。


「へえ。面白いわね。これ」

「そうだろ? 自転車ってめちゃくちゃ楽しいんだぜ!」


 ラナの反応に、大斗も嬉しそうに答える。

 そして、ようやく準備が終わった僕たちは、塩田町に向けてサイクリングへ出発した。


 なだらかな山道を大斗が先頭になって、列になって走っていく。前宮に行くなら、鞍掛山を登らないで少し迂回するように脇から行ったほうがそこまでの傾斜は無くて楽なんだ。

 というより、丸子町と塩田町を結ぶ道は本来はこっちがメインで、舗装された車道になっている。


「気持ち良いわ」

「そうでしょ? 自転車は最高なんだ」

「機構も単純に見えても、細かい工夫がされてるのね。力のベクトルをなるべく無駄にならないように……」

「そうなんだよ。最近は電動バイクとかスクーターとか使う人が増えてるけど、自転車も全然悪くないって」


 初めはガチガチに緊張していた大斗も、ラナが自転車を楽しそうに乗っているのに気を良くして段々とラナに慣れてきているようだ。

 そんな感じだったから大斗は手伝ってくれるのか不安だったけど、どうやら問題なさそうで安心だ。隼も苦笑いしながら二人のやり取りを見ていた。



 緩やかな丘を越えれば後は下り坂だ。僕たちは風を切って下っていく。やがて、道の先にこんもりとした木々が固まっている場所が見えてくる。

 そこが、星の宮神社の前宮だ。僕らの町の神社と違って、前宮の周りは少し公園のように整備されている。

 道の脇から、神社の敷地内にあるバスケットコートが見えた。その横にはスケボーのパークなども作ってあり、数人の子供たちが遊んでいた。


「あ、大斗じゃん!」

「ん? 涼子か」


 僕たちがコートの近くの自転車置き場に自転車を止めていると、一人の女の子が話しかけてきた。女の子は手にバスケットボールを持っていて、格好もなんていうか男の子みたいな感じだ。


「大斗、知ってる子?」

「ああ。塩田町のバスケットチームの子だよ」


 そう言えば大斗は、地元のバスケットクラブに入っている。身長も高いし結構上手いって聞いている。塩田町は隣町ということもあり、しょっちゅう練習試合とか合同練習をしているらしい。


 涼子って言われた子は大斗の後ろにいる僕たちをチラっと見て聞いてくる。


「どうしたんだい? わざわざ山向こうから」


 それを聞いて大斗はちょっとムッとする。


「山向こうはこっちだろ? 失礼だな」

「何を言ってるのよ。だって、そこに山があるんだから」


 確かにうちの町と塩田町は昔からどっちが田舎だと、ライバル関係にある。2つの街が隣接している大きな市があって、そこは新幹線も停まるような駅もあるんだけど、そこの市とも同じ様な距離で、ただ山を挟んで東南方向にあるか、西南方向にあるかの違いだ。


 お祭りは、二つの町の合同の祭りなのだけど。大人たちもお互いに自分たちの神輿の方が立派だと昔から張り合っているとも聞いている。


 ただ、お互いにライバルではあるけど、仲が悪いわけじゃないんだ。涼子も大斗を見て一緒に遊ぼうと声をかけてきた。


「ちょっと、私ら、四人居るんだけど、3on3やるには人数が足りないんだよね」

「でもクラブでやってるのは俺だけだぜ?」

「後ろの三人はどうなの? あら。外人さん?」


 涼子はバスケットを出来る人が居ないかと、大斗の後ろで話を聞いていた僕たちに目を向けた。その視線がラナを見て不思議そうに聞いてくる。それはそうだ。こんな田舎町に外国人なんてなかなか見かける機会は無いしね。


「ああそうか。塩田じゃ外国人なんてめったに居ないもんな」

「な、なによそれ。丸子だって同じでしょ?」

「そうかな? 丸子には割と多いぜ。そうそう、彼女、ラナっていうんだ」


 まだ町同士の張り合いは続いていたらしい。大斗はちょっと優越感を漂わせながらラナを紹介した。ラナはそれを見てニコッと笑って頭をさげる。


 話を聞いていた隼が涼子に訊ねる。


「3on3なら、後二人か?」

「そうね。私達四人で2対2でやってたけど、やっぱり三人で出来るならそっちのほうがいいじゃない?」

「そうか……。そこまで得意じゃないけど参加しようか」


 突然の隼の申し出に僕は思わず隼の方を向く。隼は体育も得意だからバスケットだって問題ないかも知れないけど。僕たちはここに転移室を探しに来たんだ。


 なんで隼がそんな事を言いだしたのかと困惑してしまう。ようやくメンバーが揃ったと良子は嬉しそうに仲間の方へ戻っていく。

 僕が「なんで?」って顔で隼の方を向くと、隼は苦笑いをする。


「これで断って、探してるのについてこられてもめんどくさいだろ?」

「え?」

「僕と大斗でバスケの相手をしてるから、二人で探してこいよ」

「う、うん」


 隼の言葉を聞いた僕は思わずラナの方を振り向く。ラナは僕の方を向いて頷いていた。

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