第6話 二人の反応
神社でラナと別れ、家まで戻ってきても、僕の頭はさっきまでの事で頭がいっぱいだった。
当然だ。今まで生きてきた十一年を簡単に超えてくる出来事があったんだ。なんて言っても宇宙人と会ったんだ。その宇宙人は普通に日本語で話をしていたし、あまり宇宙人っぽくなかったけど。外国人っぽいからまだ宇宙人感は感じたかもしれない。
少なくとも、あの転移装置の部屋を見るだけで、ラナが本物の宇宙人だって信じられる。
でも、こんな話を二人にして、信じてもらえるのかな……。
……
……
次の日も、僕たちは大斗の家で宿題をする約束をしていた。
ラジオ体操をしている間は見えなかったが、帰りがけに再び祠の方へ目をやれば、ラナは林の木々に隠れるように、そっとこっちを見ていた。
ラナは隼と大斗に言うことは了承してくれたが、基本的にはあまり他の人に知られないようにしたいみたいだ。
考えてみれば当然のことで、妹に知られたら、妹は父ちゃんや母ちゃんにすぐに伝えそうだし、そしたら父ちゃんも母ちゃんも自治会長や、仲間たちに言って、大変なことになっちゃいそうな予感がするから。
僕は、妹にバレないようにラナに小さく手を振る。ラナも小さく笑って僕に手を降ってくれる。そしてすぐにまた林の中に見えなくなった。
やっぱり夢じゃなかった。
それだけでなんとも楽しい気分になった。
……。
ラジオ体操の後、約束の時間に大斗の家に向かう。
大斗の家は自転車屋で、この時期は夏休みにツーリングに来るお客さんが多いらしく、いつもより朝早くからお店を開けているらしい。
「おばちゃん、これ。母ちゃんが持ってけって」
僕はお店にいた大斗の母ちゃんに、持ってきたトウモロコシを渡す。
「あら、嬉しいわ。三月さんところのモロコシは美味しいからね」
「へへへ。でも、毎日食べてるからなあ」
「あら羨ましいこと」
「大斗は上?」
「そうよ、ちゃんと勉強するようにって言っておいてね」
「はーい」
大斗の部屋に行くと、まだ隼は来ていないようだった。話は二人揃ってからが良いかなと宿題帳を広げる。
「そういえば、自由研究は決まった?」
「うん。神社にいる虫の種類を数えようかなって」
「みんな数えるやつだなあ……」
「大斗は?」
「夏休みに自転車で何キロ走れるか」
「おお……。さすが自転車屋。ってどうやって測るの?」
「オヤジが俺の自転車にサイクルコンピューター付けてくれたんだ」
「サイクルコンピューターって?」
「走行距離とか、最高速度とか、そういうの記録できるんだよ」
「へえ……。良いなあ」
なんか、みんなそれぞれやることを決めてていい感じだ。
そうこうしている間に、隼がやってきた。
「ごめん、ちょっと遅れちゃった」
「おー。待ってたよ」
大斗が、嬉しそうに宿題帳をヒラヒラと振っている。だけど、僕の頭の中は宿題よりもっと大事なことがあるんだ。
「ねえ。二人共ちょっと話を聞いてほしいんだけど……」
タイミングも何も無いけど、突然話しだした僕の話に二人共目をパチクリして聞いていた。うまく話せたかはわからないけど、話し終わった時、大斗はちょっと困ったように言う。
「えっと。大丈夫か? 栄太」
「ほ、本当なんだって、隼は信じてくれる?」
「うーん。栄太がそんな嘘を付く男じゃないって事は分かるんだけど――」
「宇宙人だもんなぁ……」
「そうなんだよ」
「うう……」
二人の反応は当たり前と言われれば当たり前。だから次の手も考えてある。
「とりあえず、その祠につれていくからさ。そうしたら本当だって分かるんだって」
僕が必死に言うと、大斗は腕を組んで厳しい顔をする。
「祠ねえ。でも午前中は宿題進めるって決めてるじゃん」
「う……。じゃあ、午後で良いからさ。ね。約束したんだよ。ラナと」
「ラナってその宇宙人の女の子だろ? 可愛いの?」
「え? ……う、うん。かわ……いいよ」
「本当か? うーん。じゃあ昼飯食ったらな。隼も行ける?」
大斗が聞くと、隼も大丈夫だと答えてくれる。
とりあえず、あの祠を見せれば二人共絶対信じる。ラナだって……。うん。
……
昼飯を食べたら神社の入口で集合する約束をして解散をした。
……
神社に行くと、まだ二人は来ていない。ちょっと急ぎすぎたかな。祠の方を見るけどラナの姿も見えない。どうしようかと思ったけど、せっかくだから神社の軒下に蟻地獄が居ないかの確認をしようと向かった。
「あ、巣はあるけど……」
神社の縁の下には乾いた砂の上にちゃんと蟻地獄の巣があった。でもみんな漏斗状の巣の中に隠れていて見えない。そこで、近くでアリが歩いていないか探し回る。
ようやく見つけ、それを巣に投入しようとした時だった。
「なにしてるの?」
「え!?」
突然後ろから話しかけられた僕は、驚いてアリを落としてしまう。
「あ、ラナ……。えっと。蟻地獄の写真を撮ろうと思って」
「そっか。神社に居る虫を探しているんだものね」
僕は再びアリをつまみ上げ、蟻地獄の中に放り込む。そしてすぐにPADのカメラを向ける。すると、すぐにバシュッと巣穴の中心で蟻地獄の凶悪なハサミがアリを捉える。
僕はそんな姿をきっちりカメラに収めると満足したようにラナを見る。
「私の星の男の子たちもやっぱり、こういうの好きだったなあ」
「女の子はあまり?」
「ふふふ。そうね。でも、そういうのに夢中になってる男の子を見るのは嫌いじゃないわ」
「えっ……」
ラナの言葉にちょっと驚いて振り向くが、ラナは別に何のことでも無いと行った顔で首をかしげている。
えっと……。
「栄太。こっちに居たのかよ……。あっ……」
その時、大斗が隼といっしょにこっちに歩きながら、大声で声をかけてきた。そして、僕の後ろにいたラナに目をやり、表情が固まる。
「あ、ラナ。大きいのが大斗。で、もう一人が隼。ほら、昨日言っていた……」
「うん。栄太の友達ね?」
「そう。二人共俺の親友なんだ」
「ふふふ。よろしくね。ラナって言います」
ラナが二人に名のる。だけど、どうも大斗の顔色がおかしい。
「えっと。あの……。俺は……」
そんな大斗を見て、隼が笑いながら先に自己紹介をする。
「コイツは大斗。で、僕は隼っていうんだ。栄太から聞いたけど……。あの話。本当?」
するとラナは笑って祠の方を向く。
「ええ。まずはちゃんと説明しないといけないわね」
そして、昨日の僕と同じ様に、二人を祠の中へと案内する。
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