第5話 本宮
ラナは始終ニコニコと僕の前を歩いている。
話を聞くと、どうやら地球にやってきたのは一ヶ月前。なんだかんだ言って寂しかったのじゃないかな。僕だったら一人でなんてあまり考えたくない。
ラナの星は地球よりだいぶ文明が進んでいるようで、色々な星への旅行などを可能としているらしい。その中で、僕たちの地球のように、文明の芽生えた星を研究対象として観察もしたりしているという。そういった星は地球以外にも沢山あるみたい。
ラナはそんな他生命体の研究をしている学校の、資料の詰まった倉庫を掃除したり整理するバイトをしていたんだって。
今は一つの転送装置から、色んな星に行けるのだけど、二千年前の転送装置が実用化されたばかりの頃は、一つの場所に一つの装置が必要だったんだって。しかもその転送も一方向への片道移動しか出来ないものだったらしい。
今の地球の感覚で考えればそれでもすごいんだけど。
そんなラナたちから見ると、骨董品である転送装置の中で、掃除をしていたら突然稼働してここへやってきてしまったというのが今回の話なんだって。
僕だったら、そんな事になったら多分泣いちゃうけど。ラナはあの宇宙人のパソコンを使って日本の言葉を覚えて、帰る方法を考えていたという。
あのパソコンは骨とう品って言っているけど、洋服も作れるし、食事だって作れるらしい。食事に関しては、必要な栄養素が入ったゲルを作れるくらいらしいけどそれもすごい。そんなのが二千年前の技術だなんて、驚いてしまう。
でも自分の星への通信する機械は壊れてしまっていたりと。悪いことが重なっていた。
「ねえ、栄太は何をしてたの?」
「虫を探していたんだ」
「虫って、ああ。昆虫ね」
「そうだよ、自由研究で神社にいる虫の種類を調べようと思って」
「自由研究。小学生の子供たちが夏休みにやるやつね」
「よく知ってるね」
「ふふふ。勉強したもの。あの神社の昆虫は……節足動物も入れていいの?」
「うん、そこまで細かく分けるつもりは……。え? 分かるの」
「ええ、分かるわ。ただ、神社だけじゃなくて半径でのデーターだけど……」
「ちょっ。言わないで!」
「え? 良いの?」
「だって、答えを知っちゃったら研究じゃなくなっちゃうじゃん」
「ああ……。うん。そうね」
「そうだよ」
一瞬答えを聞いちゃおうかと思ったけど、なんとなくダメな気がした。
せっかく母ちゃんからPADを借りたんだし、ちゃんと調べようと思ってるんだ。
そうこうしてる間に、山頂近くにある鳥居が見えてくる。道は丸子町からと、塩田町からの山道が合わさるところに、脇に入るように本社へ向かう参道がある。
本社と言っても、山の中のため少しさみしい感じはする。山頂が広く平らになっていて、そこが神社の敷地のようになっているんだけど。こうしてみると、面白いくらい平らな形をしているなって思う。
本当に小さい富士山みたいな感じで、この山の麓には富士見って名前の地区もあるくらい。
そんな神社の周りをラナはキョロキョロと回っていく。
「ある?」
「ううん」
転移装置があった神社の祠は神社の敷地の中でも端っこの方にあった。もしかしたらここもそういう感じで古い祠でも無いかと探し回る。
でも、真ん中の神社の建物以外に特に祠のようなものが無い。
ちょっと肩透かしを食らった気分で神社の前でぼーっと建物を眺めていると、ラナが隣にやってくる。
「前宮は明日でも良い?」
「うん……」
「きっとそっちにはあるよ」
「……そうね」
隣でラナは少しココロココニアラズな返事をする。やっぱりちょっとショックなのかなと、隣を見るとラハは俯いてじっと下を見つめていた。
なんて言っていいかわからないけど、僕は慌てて慰めようとする。
「えっと……。げ、元気だして」
「え?」
「……え?」
「あ、ごめん……そうじゃなくて。これ……見てたの」
「えっと……石?」
「うん」
ここは境内の中央にある普通の石だと思うのだけど。地面から少しだけ出ている。前宮と奥宮から上げた神輿をここでぐるぐる回しながら「わっしょい!わっしょい!」と練る所だ。
ラナは膝をつくと石をそっと触る。石の周りは砂利が敷かれていて、京都のお寺みたいに石を中心にグルグルと線が引かれていた。
そのまま石に沿って砂利の中に手を突っ込む。何だと見てるとすぐにその手を抜き立ち上がった。
「これは、多分私達が設置した石だわ」
「え? じゃあ、これが?」
「いえ。転移装置じゃないの」
「違うんだ。えっと。基地とかあったのかな? 宇宙人の。本宮だけにっ」
僕はちょっと興奮してしまう。だけど、ラハは静かに首をふる。
「たぶん、船の発着場だと思う。昔はここでこの星の人たちが私達を迎えたりしたのだとおもうわ。転移装置を設置するもっと前の話ね。きっと」
「船? もしかしてUFO?」
「ふふふ。私達にとっては全然未確認じゃないけどね。そうね。未確認飛行物体ね」
「すごっ。じゃあ、ここに迎えに来てくれるかも?」
「それはどうかしら……。私がどの装置で飛んじゃったのか多分わからないと思うの。そうなればどこへ迎えに行くかもわからないわ」
「倉庫に置いてあるやつで、まだ動いてる転移装置ってあまり無いんじゃないの?」
「倉庫の中は地力を吸えないから、多分私を転送した一回でエネルギーは無くなってしまってると思うわ。だから……多分探してはくれてる思うけど……」
「うん……」
僕はラナになんて声をかけていいか分からずに居たけど。ラナは、笑っていた。
「私は、本当ならまだ他の惑星に行ける年齢じゃないの」
「年齢とかあるの?」
「そうよ。星間旅行免許は大人に成らないと取れないしね」
「そんな免許があるんだ」
「だから、事故でも違う星に来れたって、楽しいって思うこともあるのよ」
「でも帰れなかったら……」
「なんとかなるって。だって私の星の技術はすごいのよ。きっと五年以内には必ず見つけてもらえるって信じてる」
「ご、五年……」
「すぐよ。五年なんて」
そう言いながら、ラナは胸元からネックレスのような物を取り出そうとする。僕はなんとなく気まずい気分でラナの胸元から目を離す。
「そんな強くないんだけど、これが私の位置シグナルを発信しているの。近くを船が通りかかれば、多分気が付いてくれるわ」
「そ、そうなんだ……」
横目でちらっと見たそれは、僕には単なる銀色の金属の板にしかみえなかったけど、なんか刻印みたいな模様が入っていた。
そんなラナの話を聞きながら、僕は自分だけじゃだめかも知れないと思った。
「ねえ、ラナ」
「うん?」
「僕の友達……。頼りになるやつが二人居るんだ」
「栄太の、友達?」
「そう。学校の同級生なんだ。明日、一緒に手伝ってもらえないか聞いても良い?」
「……うーん」
「本当に頼りになるんだって。隼はクラスで一番頭が良いし。大斗はクラスで一番の力持ちなんだ」
「栄太が信用できるって言うのなら私も信用するわ。よろしくお願いします」
「うん! 二人なら、きっとラナを星に返すのに役に立つよっ!」
あの二人も手伝ってくれれば、僕は何とかなる気がした。
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