第4話 空間転移装置
その部屋はなんていうか、アニメで見たことがあるような未来的な不思議な部屋だった。
薄暗い中に、機械のランプのようなものが点点と灯り、真ん中には大きなモニターで外の様子が見えていた。モニターは他にも二つあるけど、一つは消えていた。
「こ、ここは?」
「転移室……。って言ってもわからないわよね?」
「う、うん」
「うーん……。そうね。始めに言っておくと私は地球人ではないの。地球の人たちの言い方で言えば、宇宙人」
「え? はい? 宇宙……人? 君が?」
「そう。ふふ。いきなり言われても信じられないわよね」
ラナは笑って言うが、でもこの部屋に入った段階で、ラナが普通じゃないのは分かっていた。この部屋の造形だって地球のものとはとても思えない。
「ラナ……は。なんで地球に?」
まず聞きたいのはそれだ。だって、宇宙人が地球に来ると言ったら、大抵が侵略のためだ。ラナの星が寿命を迎えて、地球を乗っ取るためにやってきたとか。そんな事が頭をぐるぐると巡る。
だけど、ラナの答えは全く別だった。
「間違いで。来たのよ」
「間違い?」
「だって、あんな古い転送機がまだ動くだなんて思わなかったんだもの」
「古いって……」
「だって、この部屋を見てよ、こんな旧時代の遺跡みたいな装置、まだ動いているなんて信じられないわよ」
「そんな昔からあるの? この部屋」
「そうね、出来たのは地球の時間で千五百年近く前じゃないかしら」
「二千年?」
途方もない昔過ぎて、僕は唖然としてしまう。
ラナが大きなモニターの前に行くと前のパネルを叩き始める。
「これは……。地球で言うところのパソコンね。パソコンは分かるでしょ?」
「うん。……ってそれも千五百年前の?」
「そういう事。長く放置する可能性も見越して耐久性能をかなり上げていたみたいね。なんとか今でも使えるわ。だいぶ古いOSだから、ちゃんと使えるようになるまでちょっと苦労したけど……」
あまりにも突拍子もない話に、僕は分かってるのか分かっていないのか、それすらもわからない状況だったけど。ラナは話を続ける。
「地球のワイヤード……確かインターネットって言ったわね。それに接続して色々見ていたのだけど……ほら」
モニターに映し出されたのは、日本の神様とか、神社の情報が書いてあるサイトだった。
「ここの神社は星の宮神社っていうんでしょ?」
「う、うん……」
「で、この神社の祭神である天津甕星というのが私達のことだと思うの。別名の香香背男とあるけど、カガセーヲというのが私の星の名前だから、間違いないわ」
「え? ラナは神様なの?」
「違うわよ。さっきも言ったように宇宙人。ただ、二千年年前の人達は私達を神様か何かだと思ったに違いないわ」
「二千? 千五百年前じゃなくて?」
「多分、地球に始めてやってきたのは二千年以上前だったと思うの。ただ、空間転移装置が発明されて実用化されたのがだいたい千五百年くらい前で……」
「えっと。……色々あるんだね……。あ、そう言えば手伝って欲しいって言っていたけど」
こんな一人で何でも出来るラナに僕が何を手伝うっていうのだろう。
「ああ、そうね。この場所って空間転移装置なのだけど、この時代は一方向への転移しか出来なかったの、だからここは、私の星から飛んでくる事しか出来ないの」
「え? じゃあ、ラナはもう帰れないの?」
「そんな事……。納得できないでしょ? だから君に色々教えてもらうと思って」
「宇宙への帰り方なんて……」
「そんなに難しく考えないで。単純にこの頃の古い転送装置は一方向にしか行けないの、だから多分逆に私の星へ帰る転送装置が近くにあるはずなの。一つしか作らないなんてありえないからね」
「ということは、ここみたいなのが他にもあるの?」
「そういう事」
うーん。確かにこの神社の森の中には、ここみたいな祠とかあった気はするけど……。
「た、確かこの林の中に他にもこういう祠はあるから――」
「この神社じゃないのよ。この装置を動かしている地力を吸ってる装置だと、そこまで近いと干渉しちゃうから」
「地力?」
「この星……。えっと。地球からエネルギーを借りているのよ」
「な、なるほど……」
全然意味がわからないけど。返事をしておく。
だけど別の場所に同じ様な設備があると言われれば、この町の人達なら大抵は同じようなことを思いつくだろう。
「ここの神社、星の宮神社奥宮って言うんだけど……」
「ん?」
「星の宮神社って、本宮と、前宮って全部で3つあるんだよ」
「3つ?」
そう、ここのお祭りだって、丸子町の奥宮と、塩田町の前宮の両方からお神輿を鞍掛山にある本宮まで運ぶというお祭りだ。星の宮神社が、ラナの言う通り宇宙人を祀っている神社なら、どっちかがその施設を持っているというのは当然有り得る話だ。
その話をすると、ラナは腕を組んでウンウンと頷く。
「じゃあ、行ってみましょう?」
「え? 今から?」
「そうよ。まだ……大丈夫でしょ?」
「えっと……。本宮なら。前宮はちょっと遠いんだよ」
「……そう。でも良いわ。今日は本宮に行きましょう」
僕は思わずPADの時計を見るが、確かに本宮までならなんとかなりそうだ。元々ここからお神輿を上げれる距離だし。
って……。
「ラナは自転車ないよね?」
「洋服くらいは作れたけど。流石に自転車は無理ね……」
「自転車無いと、ちょっと遠いかもなあ」
「走ってついていくわ」
「え? 走って? うーん」
鞍掛山は、丘と言って良いくらいの山で上りもそんなに強くないからギアを一番軽くすればなんとか行ける。だけど、二人乗りだとちょっと厳しいかも。
でも二キロ弱はあるから行けるところまでは自転車でワープしたいよね。
それに僕の自転車は荷台が付いているから、二人乗りをしようとすれば出来る。僕はそんな感じでどうやって本宮まで行くか悩んでいた。
転移施設から出る前に、ラナは僕の生体認証というのをしてくれる。僕が灯籠の中の珠をひねっても何も起こらなかったのは、僕が認証されなかったという事らしく、これで僕はいつでもこの施設にやってこれるということだ。
そんな特別感にウキウキしながら僕は、神社の入口に止めてあった自転車まで案内する。
「インターネットで見たけど、本当に人力だけで動かすマシンなのね」
「えっ? う、うん。だけどっ。さ、最近は電動アシスト自転車って言うのもあるんだよっ。電気のモーターで軽くなるの」
「へえ……」
僕はラナの言葉に、なんとなく張り合ってしまう。
宇宙を旅行できちゃう人たちに、電動アシスト自転車っていうのがある。なんて言っても全然すごいなんて思ってもらえないと思うけど。
どう見ても、同じ様な年齢の女の子に、少しだけ負けたくないって思ってしまうのかも知れない。
僕が自転車にまたがって、ラナに「後ろに乗りなよ」と言うと、ラナはちょっと困ったように言う。
「二人乗りは法律違反って書いてあったわ」
「え? ……でも山道だから……。車も来ないよ?」
「それでも私達は、相手の星の法律に従うことが義務になっているの」
「それって、絶対に?」
「そうよ。絶対なの。相手を尊重することが一番重要なのよ」
「わ、分かったよ……。じゃあ、ちょっと急いでいこう」
「うん」
二人乗りで行ける所まで行こうと思っていただけに、ラナの言葉は寝耳に水だった。それでもラナの言うことは悪い気持ちはしなかった。
この宇宙人は、僕たちの地球を侵略しようとしてない。
そう思えた。
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