最終話 キンキンに冷えた麦茶が飲みたい
祝太郎の調査ノートを読み終えたところで後ろから香織の声がした。
「こっちは終わったけど、何やってるの?」
俺は急いでノートを隠して「なんでもない」と告げた。
「全然穴埋め終わってないじゃん」
「い、いや、流石に放心して……」
「そうだよね。死体を埋める経験なんてないから最初はそうなるよね」
あっけらかんとした言い方に俺はただ苦笑いするしかなかった。
晴翔とレイコを埋めて車に戻ると、香織がキンキンに冷えた麦茶を渡してくれた。
「やっぱり暑い中、穴掘りすると汗かくよね。こんなところで熱中症になったら大変だし、麦茶をクーラーボックスに入れて持ってきたんだよ」
俺は「ありがとう」と言って麦茶を貰い、一呼吸置いて言葉を続けた。
「あのさ……さっきレイコが言ってたことだけど」
「ん?前の夫の話?言わなかったっけ?まんじゅうを喉に詰まらせて死んじゃったって」
「いや、なんか聞いた気もするけどそうじゃなくて――」
「少量ずつ不凍液を食事に入れてたんだけどさ~、身体が弱るばっかりで中々死ななかったの。で、最後には食事もまともに取れなくなったから、まんじゅうを口に放り込んだらそのまま詰まらせて死んじゃった。もっと早くこうしておけば良かったな~」
「食事に毒まで入れてたのか……」俺が今まで食べてきたり飲んできたものは大丈夫だろうか?いや、大丈夫なわけないだろう。そもそも浴槽で意識が飛んだのは睡眠薬が入っていたんじゃないか? だとしたらそれ以外にも――
「どうしたの? 麦茶飲まないの? 冷たくなくなっちゃうよ?」
香織は不思議そうな顔をしたが、俺の様子を察して少し微笑んだ。
「ここまで来て私を裏切ったりしないよね? もう君は共犯なんだから、そんなこと出来ないよね?」
俺は黙ってうなづくしか出来なかった。
「もし、私を裏切るようなことがあったら……」
香織は俺が持つ麦茶に目線を移した。
「今度はお茶が怖くなっちゃうかも」
2024年8月10日。第三回怖い話朗読会発表作 「キンキンに冷えた麦茶が飲みたい」文字起こし まいみや るいか @RuikaMaimiya
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