幕間 心霊探偵 呪祝太郎の調査ノート
旧姓、田中香織。
これまでに三度の結婚をしているが、その全てが死別による離婚。
二度の出産も経験しているが、最初の子どもはSIDSで亡くなっている。
SIDSとはSudden Infant Death Syndromeの略称で、それまで何の予兆もない乳幼児がある日突然亡くなってしまう病気のことである。
直接的な原因は明らかとなっていないが、予防策としては「寝かせる時はあおむけに寝かせる」「なるべく母乳で育てる」「たばこはやめる」等が挙げられる。
当時の香織はこれらの原因になるようなことはせず献身的に家庭を支えていた。それ故に子どもが突如として亡くなってしまったことが、彼女の心に暗い翳を落としてしまったことは想像に難くない。
子どもの保険金が下りたことも香織にとっては悪い方向へと動いた。
金銭への執着が強くなり、保険金で得たお金が減る=子どもがすり減っていくような感覚に陥るようになる。失った子どもを埋め合わせるように莫大な金銭を求めるようになり、彼女の視線は夫の保険金へと向かった。
~中略~
三番目の夫について。
一番目、二番目の夫と殺害を繰り返していた彼女だが、ここで一つ変化が訪れる。
子どもを失った香織にとって新たな子どもを宿すことはトラウマであったが、第二子、晴翔を身籠った。
過去と正々堂々と向き合い、前向きな心を取り戻したのではないかと思われたが、逆であった。
SIDSの対策とは真逆のことを全て行いだしたのだ。何も悪いことをしてないのに天国へと誘拐する神への反逆のように。
そのほか確率は低いが亡くなってしまう可能性のあることはなんでもした。例えばハチミツの摂取もその一つだろう。一歳未満の赤ん坊は腸内環境が整っておらず、ハチミツに含まれるボツリヌス菌のような弱い細菌にも負けて亡くなってしまうことが、ごく少数だが起こりえる。
昨年六月辺りに駅前でオープンしたハチミツ洋菓子店「ハニーファニー」の常連となったことも、こうした背景を見れば目的は一目瞭然である。
このような所業を繰り返してはいるが、彼女は狡猾であった。
全てが不慮の事故か病気として処理された。遺族の何人かは疑問を抱いたりしていたが当然根拠はない。確証を得ることは不可能であった。
――心霊の声を聞くことができる自分を除いて。
だが心霊の声は証拠にはならない。現実的な証拠が必要だ。
そのためには次の被害者を囮にして調査するしかない。
今度、某イベントの大規模なオフ会に彼女が参加すると聞いた。
次の被害者候補にそれとなく接触できるようにしなくてはならない。
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