第34話 ウルトラ二択クイズ
文化祭は二日間に渡って行われる。
一日目は雨が降ったり止んだりのすっきりしない天気だったが、二日目は快晴。しかも気温が高く、ミニスカートでも寒くない。
三年一組の催し物は、ウルトラ二択クイズ。
カラフルなハテナマークがついたシルクハット姿の暁斗が、百円ショップで購入したおもちゃのマイクを片手に司会を務めている。
暁斗は盛りあげ上手だ。司会者は三人で交代しているのだが、暁斗のときが一番盛りあがる。
暁斗は、野木美絵子先生にクイズを出した。
「問題です! じゃじゃん!! ポテトチップスはどこの国発祥でしょうか? A、アメリカ。B、イギリス。正解だと思うほうの扉を開けてください!」
手先の器用な人たちがベニヤ板を切って作った、二つの扉。扉には赤インクでデカデカと、『A』『B』と書いてある。
クイズに正解するとポンポンを持った部隊が喜びのダンスを舞い、不正解だと槍を持った悪魔部隊が不正解者を突く。
私は、ポンポン部隊。チアガールの格好をして、野木先生が扉を開けるのを待つ。
「わからないけれど……Aかな?」
正解の扉が開かれ、私たちは野木先生を囲って、喜びのダンスを踊った。
一日目は動きがバラバラだったが、回数をこなすうちに息が合い、今では見物人から賛辞をもらうまでの完成度になっている。
司会者である暁斗が、教室内にいる見物人を見渡した。
「さぁて、次はなんとっ! タイムサービスっ!! 指ルーレットで参加者を決めます。皆様、私の人差し指にご注目を。……誰にしようかな、神様の言うとおり。鉄砲打ってバンバンバン。もうひとつ撃ってバンバンバン」
今まではクイズ参加者を挙手で募っていたのに、暁斗は趣向を変えたようだ。
暁斗は見物人に向けて人差し指を順々に動かしていたのだが、最後の「バン」で五人飛ばして、冴木先生を撃った。
「冴木先生に当たりましたー! おめでとうございます!!」
「いや、自分はいいんで」
冴木先生は後退った。遠慮して前に出てこない先生に暁斗は焦れて、指示を飛ばす。
「悪魔部隊! 冴木先生を捕まえるんだ!!」
「ラジャー!」
おとなしい生徒が多い悪魔部隊の中から元気良く飛び出したのは、澤田結愛。
結愛は冴木先生の腕を引っ張って、教室の中央へと連れてきた。
その間に暁斗は、悪魔部隊にいる北山麻衣の耳になにやら吹き込んだ。麻衣は笑顔で親指を立てると、悪魔部隊を集めて相談を始めた。
暁斗はポンポン部隊には話しかけてこない。
強制参加させられた冴木先生が戸惑っているのは当然だが、ポンポン部隊のメンバーもなにが始まるのかわからずに困惑している。
暁斗は嬉々として、進行を進める。
「さぁて、盛り上がってきました! 二択ウルトラクイズ!! 次の問題は……あれ⁉︎ 悪魔部隊の様子がおかしいぞ?」
悪魔部隊の中から飛び出してきたのは、麻衣。なぜか槍を私たちポンポン部隊に向けてきた。
「こっちは運動着に悪魔のツノをつけただけの簡易的な変装だっていうのに、そっちは可愛いチアガールの格好なんかしちゃって! 誰が用意したんだ⁉︎」
「はい、私です。ネットを漁っていたら、お手頃な値段のものを見つけちゃって」
手を上げた私に、麻衣は不敵な笑いをあげた。
「そうか、おまえか。みんな、こいつを捕まえろー!!」
「ラジャー!!」
「どういうこと⁉︎」
なぜか私は悪魔軍団に捕らえられて、扉の後ろへと連れていかれた。麻衣が唇の前で人差し指を立てる。
「アッキーの指示に従おう」
扉の向こうから聞こえてくるのは、説明している暁斗の声。
「大変なことが起こりました! なんと三年一組のアイドル、ゆうちゃんが悪魔に連れ去られてしまいました! 助けることができるのは、冴木先生ただ一人! Aの扉かBの扉、どちらかにゆうちゃんはいます。正解の扉を開けて、ゆうちゃんを助けてください。……といっても、当てずっぽうで開けるのは危険です。ヒントをもらいましょう」
暁斗は、私と麻衣に伊能忠敬のモノマネを要求した。ひどい無茶振りである。私と麻衣はそれぞれ、
「日本って広いですねぇ」
「人生五十年といわれた時代に、五十五歳で測量の旅に出たんだよ。わしっ
て、すごいでしょ。興味のある人は、千葉県香取市にわしの記念館があるから、ゆっくり見でって。月曜日と年末年始は休館だから、そこは気をつけてちょーだい。見学時間や入館料を知りたい人は検索ピポパして」
暁斗が、Bの扉の裏にいる人に尋ねる。
「検索ピポパってなに?」
「ノリだノリ。わしもあに言ってかよぐわかんねぇ」
伊能忠敬のモノマネってなんだよ、と教室内に微妙な空気が流れていたが、麻衣のモノマネは爆笑を起こした。
私もウケ狙いのモノマネをすればよかったと悔しがっていると、暁斗が話を振ってきた。
「Bの伊能忠敬さん、おもしろすぎ。それに比べて、Aの人はおとなしいね。さては歴史の授業中、冴木先生を見つめるのに一生懸命で、伊能忠敬が誰かわかっていないな?」
「失礼なことを言わないで! 日本地図を作った人だって知っているし!」
教室は笑いに包まれているが、知識と頭の回転の良さを発揮した麻衣に比べ、私はいじられて笑いをとっている。おもしろくない。
「では次は、手! 手を見せてもらいましょう。これで、どっちがゆうちゃんなのかわかるはず。お二人さん、扉の隙間から手を出してください」
今までで一番大きな笑いが起こる。なぜ皆が笑っているのかわからず、隣を見ると、麻衣が右足を出している。
私も負けじと、右足を扉の隙間から出す。教室がどっと沸く。
「おーっと! 俺は、手を出してって言ったんですけどね。なぜか二人とも足を出してきた。ははっ、なんで? 不思議だよねぇ。しかも一人は生足で、もう一人はジャージ。どっちがゆうちゃんか、わかっちゃったね。では冴木先生、正解の扉を開けてください」
開かれた扉は、A。
先生は見事、私を当ててくれた。
暁斗にマイクを向けられて、私は不満を訴えた。
「先生が当ててくれたのは嬉しいんですけれど、笑いで麻衣に負けたことが悔しいです!」
「だそうです。麻衣さんはいかがですか?」
「笑いで私に勝とうだなんて、百年早いって感じです」
教室に笑い声が響き、野木先生は笑いすぎて涙をこぼしている。
私と麻衣は、笑いを勝ち取ったことに満足した。
だがその後、暁斗は私に説明した。
「なんで笑いに走ったの? 冴木先生に触れる機会を作ってあげたのに。ゆうちゃんのおバカ」
「うっそ……」
どうやら私は、先生と握手できる機会を逃してしまったらしい。愚かすぎる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます