第6話 『小さな怪物』ミシャ
「小さくね?」
「大粒のブドウくらい、かな?」
「圧縮された魔断石か?」
「全力すぎだんろ」
鼻で笑ったギルが、槍の姿のミナコで小さい球体をぶん殴る。
上から叩きつけられたそれは、球に触れることなく、10センチメートルくらい離れた位置で完全に停まっていた。
「魔力漏れてねぇか?これ」
「密度高すぎるね」
「相変わらず意味わからん魔力量やな」
「ギル、邪魔だからどいて」
『邪魔だってー!きゃははははは!』
「うおっ!てめぇ急に————」
何も言わずに人になったミナコによって、ギルが前のめりに倒れかける。踏ん張って、文句を言おうと逃げたミナコの方を向く。視線の先には、矢を撃つ寸前のエレンがいた。
「『
「あっぶねぇ!!!」
「ナイス回避!」
『さすがの反射神経ですねギルさん』
「ギリギリだねぇ!」
『アハハハハハハハ!!』
当たる寸前で身を捩って飛び躱すギル。矢は、ギルがいた所を通り、シルンが封印された球を貫く。
「ふざけっ———!?」
着地したギルが、こっちを睨んだ瞬間、ギルの後ろの球から、かなりの密度の魔力が半球状に放たれて、ギルはそれに巻き込まれて吹っ飛んだ。
「あら?ギルの声がした気がするわ?」
『魔力で吹っ飛んだんだろう』
球の方から、桃色のウェーブがかかった長髪と瞳、そして出る所は出て引っ込むところは引っ込んでいる、かなり母性を感じるシルンと、灰色の後ろでまとめられた長髪と、黒い眼、眼鏡をかけた賢そうなマーリンが現れた。
「おっはー!シルン」
「ええ、おはようガル」
「いきなりで申し訳ないんだけど、実は悪いニュースがあるんだ」
「人類が滅んだ、とか?」
「滅んだかも、だね」
「まだ可能性としては残ってんのよね」
「ほえぇ〜…それは大変ですね」
「反応薄くて笑う」
シルンって、俺たちに対する信頼凄いんだよな。神との喧嘩の時だって、『私達ならどうにでもできる』っていつもの調子で言われたんだ。
実際、どうにでもできたんだが。
『お、おはよぉ…マーリン、さん…』
『ああ、おはようミナコさん』
ギルが地面から抜けるのを手伝ってたら、ミナコがマーリンのすぐ横で借りてきた猫のように大人しくなってた。
「やっとミナコが静かになるぜ…」
『マーリンくんの近くじゃミナコちゃんは乙女になっちゃうもんね』
「マーリンも満更じゃ無さそうだし、とっととくっ付いてくんねぇかな」
「秒読みつって100年近く経ったんだぞ?マーリンも男みせろってんだ」
なんて、ぶちぶち文句言ってたらマーリンがこっちを向いて反論をしてきた。
『まだ読むことすらできてない方々には言われたくはないな』
嘲笑の表情をしながら、奴はそう言ってきた。
「………ヤロウ!!」
「てめぇ!」
「なんつったかこの野郎!!」
言っていいことと悪いことの区別もつかねぇのかクソジジィ!もしかして判断力低下してんのかぁ!?それとも忘れたのかァ???まったくこれだから歳はとりたくないぜ!!
「ふっ…醜いね」
『そんな言葉言っちゃいけないよ?アーサー』
「あらあら〜」
《五振:破壊》の使い手、第五席『小さな怪物』ミシャ。彼女の生まれた大陸は、人口が途轍もなく少なかった。
彼女のいた大陸には、巨人族という、デカい、硬い、怪力の三拍子が揃った厄介極まり無いモンスターが多種多様いる。更に厄介なことに、異種での交配が可能で、数年に一度新種の集落が見つかる。
長い年月をかけ、人類の生存圏は狭くなり、気付けば聖剣の使い手の手が届くギリギリまでになってしまった。
そんな大陸でミシャは、人類圏の外で育った。聖剣の使い手の父と、小柄な母の下に生まれ、先代使い手の祖父に預けられた。
彼女の家系は、代々怪力な者が多い。彼女は、その中で最も力が強かった。3歳の頃には鉄柱をへし折ってしまう程に、強かった。そんな彼女が人類圏でまともに生活できる訳もない。そのため、先代の聖剣の使い手である祖父に預けられたのだ。週に3回、会いに行っていたため家族仲は良好であった。
彼女が20歳となった時、普段、内気で主張の少ない彼女が、初めて家族に『わがまま』をした。
戦いから遠ざけられていた彼女は、父親に『せ、聖剣が、ほしい!!』と叫んだ。
歴戦の戦士だった彼女の父親は、彼女に完膚なきまでに敗北した。彼女は、ただ強いだけでなく、才能もずば抜けていた。一目で全てを盗み、応用し、自分のものにしていく。反対していた母でさえ、むしろ安心する結果となり、無事聖剣を受け継いだ。
その後、ガル達が現れるまでの100年間で、生存圏を大陸の半分まで回復させ、更には巨大な生物に対する基本的な対応を確立させ、最高の使い手と言われるようになった。
1000年ぶりにおはよう世界!さーて、人類はどうなっているのか…な………滅亡してんじゃねぇか!!〜八つの封印と7つの聖剣〜 不定形 @0557
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