第5話 『魔帝』シルン

 早朝。太陽が顔を出し始めている。


「ガチすぎるだろ。そんな労力あるんなら俺にも少しは使ってもよかったやろ」

「確か岩だったんでしょ?封印の媒体って」

「末席つって舐められてたもんなぁ。ガルは」


 ギルは、一辺6メートルのオリハルコンでできた立方体に封印されている。オリハルコンは、他の幻想金属と比べて最も軽く柔いが、魔力伝導率が最も高い金属だ。当然、封印は魔力を使うから最適ではある。

 この大陸は確かに幻想金属がよく取れるが、それにしたって多すぎだ。


『シユっちはだいじょぶかーい?』

「アイツは今寝てる」

「一番頑張ってくれたから、しばらくは働かなくても良いと思う」

『私もそう思うけど…あの子のことだから、言っても聞かないんだろうね』

「私らの中でも特に重いから仕方ねぇよ」

「何言っても聞かなかったら命令で休ませるから大丈夫だ。マカセロ!」


 雑談しながら、リリーエルとマッハが封印状態で寝ているミナコを起こすのを待つ。


『終わったよ』

『後はヨロー!』

「ういよ」


 立ちあがろうとしたら、アーサーとエレンに止められた。


「お前がやるとシユを起こすかもしれねぇだろ」

「外しても起きそうだし、ここは僕たちがやるよ」

「あー、そいやそっか。んじゃ頼むわ」

「「任せて!任せろ」」


 そう言うとオリハルコンの方へ二人は歩いて行く。


「せーので行くよ。準備はいいかい?」

「おう。いつでも良いぜ」


 二人は静かに魔力を練り上げる。言動にそぐわぬ丁寧で緻密に練るエレンと、教科書のように練るアーサー。

 アーサーがせーの、と大きく言うと、魔力を浸透させる。それから3秒待つと、オリハルコンの真ん中に大きくヒビが入り、左右に別れた。


 中心から、二人降りてくる。


『アハ!みんな元気ー?』

「うるっせぇな寝起きに叫ぶなよ」


 一人は翠色の髪と瞳を持った荒々しい見た目の男、ギルともう一人はピンク髪と赤いぐるぐるとした目で果てしなく笑っている女、ミナコだ。


「グッドモーニング!ギル」

「突然だけど、人類は滅んだよ!」

「テンションたけぇな…どうしたんだこいつら」

『人類滅んだのー?たいへーん!』


 『たいへんたいへーん!』て言いながら走り回るミナコは置いといて、意外と良識ある方なのに特に反応ないの、なんでだ?


「人類滅んでんだぜ〜?もっと反応しろよ〜」

「そうだそうだー」

「そのテンションで言われたら薄れるんだよ。それが無いにしても『やっぱりか』としか思わねぇよ」

「まあ、よく考えたらそうだよな」

「うぇー?何故?」

「忘れてるかもしれんが、聖剣が作られた理由が『永遠に訪れる人類の危機から救うため』だろーが」

「私達、救世者がいない1000年間耐えられるわけないだろ?その間一切厄災が来ないっていう奇跡でも起きない限り」

「「確かに」」


 厄災、人類の危機は大体数十年から二、三百年に一回来る。

 つまり、最低でも3〜5回は厄災がやってくるって事だ。一回凌げて良い方だ。それが、最低3回、多くて三桁近くやって来たら、滅んでない方がおかしいまである。


「それに、滅んでねぇ可能性もあるんだろ?アーサー、ガルはまだしもエレンがこれなんだ」

「これってなんだよ」

「お前賢いな!」

「不可解な所はあるから、もしかしたらがあるかもしれないよ」


 なんて話してたら、ミナコの声と、何故か遠くからでかい足音が響いてきた。

 音の方を見ると、ミナコを背負ったマッハが、アホみたいな量の大型モンスターを連れてきていた。


『にゃはははは!大漁じゃあ〜!!』

『うっひょ!流石に怒られる!』


 なんて、遠くから聞こえてきて、離れて蝶々と戯れていたリリーエルは呆れ顔を見せ、俺ら4人は、『いつものか』と、呆れていた。








 《四振:賢者》の使い手、第四席『魔帝』シルン。彼女は幼い頃から、天才、神童、と呼ばれていた。

 彼女はとある国の王都の、一般的な家庭に生まれた。彼女は母親に似て、のんびりとした性格だ。


 そんな彼女は、5歳の誕生日に王宮魔術師の父親から1000ページを超える魔法書をもらった。それから僅か一週間で読み切り、かつ全ての魔法を完璧に扱えるようになった。

 それから、家の中限定で父親の魔法研究の手伝いを行い、数々の功績を残していた。彼女が十五歳となり、今まで彼女の父親の謎の協力者とされていたシルンは、学園に通い、その中でその謎の協力者だと知られるようになる。

 それからも彼女は様々な功績を残し、その度に天才、才女と囃し立てられた。

 1年経った頃には、その優しさや包容力、そして見た目から、聖母と呼ばれるようになっていた。


 彼女が20歳となった頃、彼女の転機が訪れる。無詠唱魔法という、伝説の存在として語られていた物を技術にしたのである。

 『理論上できるけど、神とかそのレベルじゃないとできない』と言われていたそれを扱えるどころか、技術にし、それにより何人か扱えるようになった。

 発表から一週間がたち、シルンのもとに聖剣の使い手がやってきた。『私より凄い子は初めて見たよ』そう言いながら、聖剣をわたしたのだ。


 シルンを相手にする時、周囲の人間はシルンという個人ではなく、天才という存在として接する。そのため、彼女は仲間達に感謝をしていた。自分を自分として見てくれた。対等な存在として扱ってくれた。

 彼女は少し、寂しがりやなのだ。

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