第4話 『戦狂』ギル

「ほんとに人一人いないね」

「なんの痕跡もないのが不思議だよな。俺らが封印されてすぐに滅んだならわからんでもないが」

「地下が残っててもいいと思うけどね」


 エレンが封印された大陸は、三分の一が荒野だ。もともとあった地形は一切変わっていない。それなのに人がいた痕跡は何一つとして残っていない。意味がわからん。


『そんなことはどうでもいいので早く行きますよ』

「どうでもよくはねぇだろ」

『どうせ、考えても分かりませんし、どうでもいいのです』

『ふふふ、確かにそうだね』


 荒野と続くように、草原が広がっている。その草原の中心で、大きな湖が現れた。


「ここ?」

「俺と比べて仰々しすぎるって。舐められすぎじゃね?俺ら」


 エレンはこの湖の中心で眠っているらしい。俺がいかに舐められているのかよくわかるぜ。


『では、行きましょうリリーエルさん』

『わかったシユちゃん。行ってくるねアーサー!』

「気をつけてねリエ」

「熱いねぇ見せつけてくれちゃって」


 2人は濡れることなく湖に入っていく。前に見た時にどう言う理屈か聞いたら『せいけんぱわーです』っていわれた。あの時ほどシユを馬鹿だと思ったことはない。

 待ってる間暇だから、アーサーと収納の魔法の中のボードゲームで遊ぶとしよう。


 シユとリリーエルの二人が湖に入ってそろそろ20分。三戦三敗とかいう大敗を喫しております。

 やる事なす事全部読まれて完封されるのマジで怖いんだよな。アーサーから聞くには、聖剣の技能でもなんでもなく、好きだからわかるとか。怖いよなコイツ。


『あら、マスターは無謀にもアーサーさんに挑んでるのですか?』

『私達のやる事は終わったから、あとはお願いガルさん』


 ザバザバ音を鳴らしながら湖の中からシユとリリーエルの二人が出てくる。


「おっし任せろ」

「がんばれー」


 アーサーのやる気のない激励を受けながら、湖の中に入る。エレンの気配がする岩を見つけ、アーサーの巨木にしたように殴る。すると急に光だし、震え始める。

 まずくね?って思った時には時すでに遅し。大爆発を起こした。


「あぁ…?なんだうるせぇな」

『派手でいーじゃん』


 煙幕の中から2人の男女が現れる。

 炎のように紅い髪と、深淵のように黒い瞳、右頬から首に掛けて大きな傷跡を持ったクール系美人、エレンと、長い金髪をポニーテイルにし、どちらとも取れる中性的な顔立ちをした、ケタケタと笑っている野郎、マッハの二人だ。


「よお、元気か?」

「おはよう」

「おう、おはよう」

「突然だが一つ悪」

「人類滅んだっぽいよ」


 割り込んで俺のセリフぶんどりやがったこいつ。


「………は?」

『うそじゃーん…』


 エレンは目を見開き、マッハは愕然とした様子だ。


「まあ、不思議な所もあったりするから、断言はできないけどね」

「………オーケーわかった。先に全員の封印を解くって方針だな?」

「おうそうだ。てことで、ちゃっちゃと次行こうぜ」

「そうだな。マッハ」

『はいよ!』


 エレンが呼びかけると、マッハは弓に姿を変えた。リリーエルは2回目だからか、察して何も言われずとも剣の姿に変わっていた。

 シユは連続で力を使ったせいか、ふらふらとしていたから先に籠手に姿を変えている。


『…すみませんマスター』


 月が顔を見せ、星が見え始める。既に2人は出発しており、いざ行くかって時に弱々しいシユの声が聞こえた。


「気にする必要ねえよ。1000年以上力を使い続けてんだから仕方ねぇって。謝るより先に休め」

『ありがとうございます。少し、寝ます』


 おやすみ、と返した時には既に寝ていた。


「速すぎてうける」








 《三振:殲滅》の使い手、第三席『戦狂』ギル。彼は、暴力が人の形をしていると言われるほど、荒々しい人間である。

 彼は、貴族出身である。彼の家族は、皆温和な性格をしている。身体能力はお世辞にも高いとは言えず、外見以外、ギルとはとても似ていなかった。

 しかし、そんなギルを彼の家族は優しく受け入れた。彼の家の騎士達を簡単に伸すギルが、冒険者になると言っても怪我を心配して反対するほど愛していた。彼も、そんな家族を愛していた。


 そんな彼はある日、大剣を担いだ、身体がボロボロの先代の使い手と出会った。と出会った。男は、名前を名乗りもせず、大剣をギルに押し付け、何処かへ走って行った。困惑しているギルは、突然、聖剣から力が激流の如く流れ始めた。一般人であれば、耐え切れず壊れるほどの力。

 彼は、眉を顰め、聖剣をぶん殴った。

 ぶん殴ると、『イタイ!』という声と共に、聖剣が光だし、収まると槍となっていた。


 その事が大陸中に広がり、あっという間に大陸の、人類の守護者として祭り上げられていた。

 彼は自由が好きだ。縛られるのは、動きにくく嫌いなのだ。棘そのものの様な彼は、嫌いな人間は殴り、蹴り、蹴散らして行った。そして、重症患者のような扱いをしていた王室をぶっ壊し、元々彼が活動していた大量のモンスターとの最前線に立ち、三日三晩、八つ当たりの如く槍を振り回した。それから彼は1日も休まずとにかく戦い続けた。

 それまでは失格勇者や蛮族などと呼ばれていた彼は、いつしか《戦狂》と呼ばれるようになった。


 ギルは戦いが好きだ。それと同時に平和も好きなのだ。彼は、自分と対等な数少ない友人達と、共に馬鹿をするのが大好きなのである。

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