第3話 『万里眼』エレン
アーサーが封印されている所に辿り着いた。大体半日くらいだ。
「なんか…俺達と比べて仰々しくない?」
『そりゃ、マスターと私は舐められてましたから』
俺とシユは、岩を媒体として封印されたのに対して、アーサーは、自然の力強さを主張する巨大樹木に封印されていた。
「ま、いいかそんなこと。で、何をすればいいんだ?」
『先ずは私がリリーエルさんを起こします。その後、合図をするので、この樹の芯へ強い衝撃を与えてください』
「りょうかい」
俺がそう言うと、長くなると思うのでそこら辺で休んでてください、とシユは言い、樹に手を当てた。
それを見て、そこら辺の木を手刀で切り倒し、切り株を作りその上に座る。
それから30分後。シユが振り返った。
『お願いしま………何しているんですか?』
「何もしてねぇ」
俺の肩の上や頭の上、膝の上や隣、足元などなど、なぜかリスが沢山俺に集まってきている。
『ほんと、昔から小動物に好かれますね。なんでマスターみたいな存在を好むのでしょうか?』
「知らね。んなことより、やっていいんだな?」
『はい』
俺が動くと、俺の上にいたリス達は降り、そのまま周りにいたやつと同じ所に移動していた。
「おーし、やっちゃうぞー?ほらアーサー、起きろー」
この樹の核を、生物で言う魂を殴り付ける。
大きく脈動し、樹がどよめく。そして、一際大きく揺れたと思えば、樹に、細かな太刀筋が走り、崩れ始めた。
「うー…ん、よく寝た!」
『おはようシユちゃん、ガルさん』
崩れ去る樹の中から、伸びをする金髪イケメンのアーサーと、銀髪美少女のリリーエルが現れた。
「おうおはよう。早速で悪いんだが、一つ、悪いニュースがあるんだ」
「悪いニュース…?はっ…!まさかガル、シユさんと…!?」
「『
「じょーだんだよ!」
あはは、と愉快そうに笑うアーサー。
冗談にしたってもっとあっただろ。なんで俺がこんなポンコツとデキなきゃならんのだ。俺にだって選ぶ権利はあるんだぞ!
「それで?悪いニュースってのは?」
「あぁ、それなんだがな。なんとびっくり、人類滅んだっぽいわ」
「わあ」
『それは、また…』
適当な反応のアーサーと驚きで目を見開いたリリーエル。
「『勇者』とは思えねぇ反応だなおい」
「勝手に言われてるだけだからね。僕は、みんながいればそれで十分だし」
「相変わらずだなお前」
「ふふふ。で、これからどうするの?」
「まあ、取り敢えず他の奴らも封印を破壊して回る予定だ」
「まあ、それが一番だね。ここから近いのはだれかな?」
「エレンだな」
《二振:神速》の使い手、『万里眼』エレン。聖剣の姿は弓で、語気は荒いけど面倒見のいい良いやつだ。
「んじゃ、行くか。シユ」
「だね。リエ」
『全く人使いの粗い…』
『ふふっ、頼られてるって感じて私は嬉しいよ』
それぞれ、武器に姿を変え、身に付ける。
そのまま、エレンが封印されている方に吹っ飛んでいった。
「気にしなくていいのは気持ちがいいね!」
「それな!」
《二振:神速》の使い手、第二席『万里眼』エレン。彼女を語る時、必ず必要な要素がある。
それは、眼の良さである。彼女は桁違いに眼が良かった。それこそ、約40000キロメートル先で動く蜂の数がわかるほど。
しかしそのせいか、エレンの一族の特徴である燃えるような紅い瞳は、深淵を覗いている様な黒色の瞳に変わっていた。それを気味悪がった彼女の一族は、彼女を捨てた。それが、エレンが5歳の時である。その後拾われた孤児院で優しさと、その暖かさを知ったエレン。彼女は、一族を反面教師に、孤児院の人間を教師に育って行った。
エレンには、人生を変える人との出会いがあった。それは、先代の《二振:神速》の使い手との出会いだ。エレンのいた孤児院は17歳になった者は孤児院から出ないといけない。エレンは、高い身体能力を活かし冒険者となった。冒険者にはランクがあり、G〜Sまであり、彼女はCランクからスタートした。しかし、彼女はランクに興味はない。割りの悪い依頼や、人気のない雑用等のみを受けていた。
報酬の少ない依頼のみを受けていたエレンは、それでも孤児院に寄付を行っていた。寄付ができるほどの依頼を受けていない彼女が稼げた理由とは、彼女の魔力はモンスターがよってくる性質を持っていた。そのため、薬草を採取する時に、ついでとして多くのモンスターを討伐していた。通常、依頼の最中、依頼とは関係のないモンスターを討伐した時は、そのモンスターの討伐依頼書を持っていくことで達成とすることができるのだが、エレンは、この依頼で昇格できる人がいるかもしれない、とそれらを全て断っていた。
そうやって生活して2年。彼女の元に、当時の聖剣の使い手がやって来た。当時の使い手クリアは、エレンに会うや否や、『私の代わりに聖剣の使い手になってくれない!?』と迫った。
突然で困惑したエレンは、とりあえずで話を聞いた。クリアは現在交際している人がいるが、聖剣の使い手のままだと添い遂げ共に果てることが出来ないからだという。聖剣の使い手となった者は、老いや病で死ぬことは無いのだ。
了承したエレンは、『使い手が認めないと受け継がられない』と聞き、1年後にまた来て欲しいと頼んだ。
それから一年間、弓を扱い、ランクを上げ、体力をつけた。1年後、無事受け継ぐことができたのである。
それから10年後、軽薄な話し方の聖剣が、軽薄な美青年に姿を変えたり、100年後にガルがアーサーを引き連れて現れたり。ただただ人に優しかった彼女は、様々な優しさの形を知り、人々を救う。一部の人間は、聖女と読んでいたりする。
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