第2話 『勇者』アーサー
七聖剣は、代替わりで使い手が変わる。受け継ぐ、とも言う。
ある聖剣は使い手を負かすことで、ある聖剣は聖剣が選ぶことで、ある聖剣は使い手が認めることで、それぞれの方法で受け継がれる。俺は、
俺達の代は、なんの偶然か全員同じ日、同じ時に受け継いだらしい。まるで初代の様だと、よく言われていた。
「あーくっそ、遠いなおい」
『大陸を渡るんですから、当たり前です』
とりあえずで、一番近くにいる聖剣使い、アーサーに向かって走りながら愚痴る。
アーサーってのは、《一振:聖剣》の使い手であり、『勇者』の二つ名を持つ、勇者そのものみたいなやつだ。
「遠いうえに鬱陶しいくらいモンスターも居やがるの、ほんとにクソだぜ」
10メートルくらいあるギガントの上半身を、腕の一振りで弾き飛ばす。音を超える速さで突っ込んでくるガンバードを掴み地に叩きつけ、目の前に飛び上がってきた岩を蹴り飛ばし直線上の木々や岩、オーガ3匹を纏めて消す。
「よっしゃ通りやすくなった」
『相変わらず出鱈目ですね。1000年眠りかけてたのですから、少しは人間に近づいても良いのでは?』
「俺は人間だが?」
今、シユは籠手の状態で俺の左手にいる。封印を破壊したことでかなりの力を使った様で、そんな状態のやつを走らせる訳にもいかないからな。
「そろそろ海か」
『結局、ここまで人の痕跡は有りませんでしたね』
「まったく…なんのために封印されたと思ってるんだ」
人類の繁栄、技術の躍進の為じゃ無かったのか?舐めやがって。
『愚痴を言ってる暇があるならもっと速く動いてください。早くリリーエルさんに会いたいので』
「それが運んで貰ってる使い手に対する態度か?」
言いながら、全身に魔力を纏う。
よく考えたら、周りへの被害考えてセーブして走る必要ってないよなって。
《一振:聖剣》の使い手、『勇者』アーサー。彼は、否、彼の世代、奇跡の七人と呼ばれる彼らは、全員が歴代最高の使い手と呼ばれている。その中で、アーサー、彼は最も人気が高く、彼等のために作られた、実績から付けられた7つの席、『七星』の第一席に座っている。
性格が良い、賢い、強い、イケメンと完璧超人気味の彼は、いま、眠っていた。果てのない暗闇の中で。
彼は、今夢を見ている。生涯会った人間の中で最もバカで、最も信頼している親友、ギルの夢を。
アーサーは、長い間孤独だった。同世代の中でも、群を抜いてスペックが高かった彼は、突然変異とも言える生まれをしていた。
彼の両親は、どこにでもある平々凡々な夫婦だ。そこに生まれた彼は、両親の仲を引き裂く手前まで行くほど異質な存在だった。彼の両親は茶髪であり、整ってはいるが『普通よりは』と言う枕詞が付く程度の顔立ち、平均ほどの身体能力であった。
しかし、アーサーは、金髪で、すれ違った者が皆振り返るほど整った顔、5歳にして成人男性を軽く凌駕する身体能力を持っていた。
そんな彼を、周囲の人間は異質なものとして扱った。
そんな環境だったため、親しい人間は居なかった。彼は、常に寂しかった。
彼には、3回、人生の転機と呼べる出来事がある。2回目はギルと、仲間と会ったこと。3回目は封印されたこと。ただ、彼の中で最も大きな転機は1回目の、聖剣と出会った事だった。
《一振:聖剣》は、使い手に合わせて姿を変える七聖剣では唯一、剣の姿から変わったことのない聖剣であった。《一振:聖剣》は、聖剣が使い手を選ぶ。彼が二十歳の時、彼の目の前に聖剣が突然現れた。一人で本を読んでいたアーサーの目の前に現れ、聖剣は開口一番、『私と契約をしてほしいです』とお願いをした。それに、アーサーは『話し相手になってくれるなら』と言い、了承した。
アーサーは当時、人類史上最高の存在と呼ばれていた初代使い手よりも高いスペックを持っていた。が、悪き心を持っているわけでもなく、むしろ善人でしかなかった彼の、初めての話し相手となった。
二十年間生きてきた中で、唯一の話し相手であり、初めて親しくなった、優しく綺麗な声の存在とずっと一緒にいれば、初心な男であれば誰でも堕ちるというもの。契約して一週間立った時、聖剣が人間へと姿を変えた。小柄な体躯に腰まで伸びた白銀色の髪、純白の瞳に陶磁器のような肌の少女は、リリーエルと名乗った。
それから約100年後。アーサーは新たな仲間と出会い、リリーエルは久しぶりの七聖剣の集合を果たす。数多くの苦楽を共にした仲間のことを誰よりも大切にしているアーサーは、ギルに強い感謝をしていた。そもそも七星は、ギルが居なければ集まることはなかったのだ。
よく、アーサーは七星の中でリーダー的存在として扱われる。しかし、真のまとめ役、リーダーはギルであると、アーサーは思っている。
そんな彼は、夢がある。仲間たちと自由に、世界を旅することだ。
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