第28話
「よ~し。家から材料運んできたし! 早速作ろっか! ウヒヒヒ、久々の大物だから腕が鳴るなぁ!」
部屋の片隅に山積みになった材料を見て朝比奈さんがスリスリと手を擦る。
浮かべた笑みは武者震いにも似て、ワクワクした様子ではあるのだが。
「確かに俺は格好いいコスがいいってい言ったけどさ。本当にいいのかよ……」
「なにが?」
今更怖気づく俺に、朝比奈さんはあっけらかんと聞き返す。
「だって、ドラハンの装備だぜ? 頭から爪先まで厳つい鎧にゴツイ武器だ。どう考えたって大変だろ……」
熱い議論を重ねた結果、俺達は大人気アクションゲーム、ドラゴンハンターシリーズの最新作、ドラゴンハンターワイルドハートのコスをする事になった。
「あたしは別に平気だけど? ドラハン好きだし、新作出るから話題性もバッチリじゃん? 全身鎧なら黒田君が気にしてる体型の問題もクリアできるし。作るのだって黒田君も手伝ってくれるんでしょ?」
「それは勿論! 俺が着るのに朝比奈さんに丸投げってわけにはいかねぇよ! 何が出来るかわかんねぇけど、出来る事ならなんでもするから! むしろ出来ない事でも教えてくれれば死ぬ気で覚えて頑張るから! 手伝いとは言わずガンガンこき使ってくれ! 勿論金も出す! 分割でよければ……」
朝比奈さんが良いと言ってくれるなら、俺だってドラハンコスをする事に異議はない。
むしろしたい。めちゃくちゃしたい! やりたいコスなんか特にないと口では言ったが、朝比奈さんとあれこれ意見を出す内に考えが変わった。
ドラハンシリーズは昔から大好きで、新作が出る度に琢磨と遊びまくっていた。お互いに思い入れのある作品だし、初めてのコスにも相応しいと思う。
御託はいい。
シンプルに俺はドラハンの装備を着てみたい。ドラハンプレイヤーなら誰もが一度は願うはずだ。コスプレなら、その夢を叶えられる。
とはいえ、素人の俺にはどうやったらあんな凄い装備を作れるのか、さっぱり思いつかないのだが。
「お金はいいって。あたしが無理言って誘ったんだし、材料費ちょっと貰えればいいから」
「ダメだって! そういうのはキッチリしないと。今後の友情に関わるだろ!」
「そう言われても、友達からお金取るの気まずいし。てか材料費以外幾ら取れば良いとか計算するのめんどいんだけど……」
「そこは朝比奈さんが好きに決めてくれていいから。俺もそのつもりで覚悟してるし」
「そういうのが一番困るんだって! 全部自分で作るならまだしも、黒田君も手伝ってくれるわけだし!」
「そうだけど、俺だって友達にタダでコスプレ衣装作らせるわけにはいかないだろ!?」
話し合っても結論は出ず、お金の問題は完成してから考える事になった。
「そんな事より! あたしは早く作りたいの! コスプレの醍醐味の半分は製作過程にあると言っても過言じゃないんだから! 時間だってそんなにないんだよ! 急がないと!」
作業用に持ってきたテーブルを朝比奈さんがドコドコ叩く。
「わかったよ! それで、まずは何をしたらいんだ?」
「うむ!」
待ってましたと頷くと、朝比奈さんはテーブルに自前のタブレットを置いた。
「コスプレ製作の心得その1! コスするキャラの資料集め! って事で、まずはどんな衣装か理解する為にトレーラーを見まくろう!」
「おう!」
ドラゴンハンターワイルドハートは未発売の新作だ。
そうなると、資料になりそうな物は公式が出しているトレーラー映像しかない。
というわけで、二人で正座しタブレットに向き合う。
画面が小さいので、必然的に俺達は肩が触れ合う程に寄り添った。
そして数分後。
「くぅ~! 何度見ても最高だぜ! 映像綺麗すぎ! 装備格好良すぎ! てかなんだよあのチョコ〇みたいな鳥! 格好良すぎだろ!」
「ね! ね! マジヤバいよね! ライスのワンちゃん便利過ぎでもう騎乗動物なしじゃ無理かもとか思ってたけど、据え置きタイトルでも乗り物出してくるとは! 流石カプケン、わかってるぅ~!」
「それな! しかもこいつ飛べるんだぜ! 滑空だけっぽいけど、それでも良すぎる! 武器も全部格好いいし!」
「ヤバいよね! 新しく増えた構えモーション超格好いいし! 特に大剣! あんなん見せられたら作りたくなっちゃうよ!」
「わかる……。大剣ヤバかったよな。正直今までのはちょっともっさりしてる所がダサかったけど、今回の大剣はマジで過去一格好いい! もっさり感を残しつつスタイリッシュって言うか、いい意味で野蛮な武器って感じが出てるって言うか」
「まさにワイルドハート! ワイルドだろ~?」
朝比奈さんが腕まくりで百年前のモノマネを披露する。
全く似てなかったが、俺達はゲラゲラだ。
「てか朝比奈さんもドラハンやってたんだな」
「当然! 冬花ちゃんと二人でブイブイ言わせてたし!」
「武器はなに使ってたんだ?」
女の子だから笛とかかな。なんて安易な予想を立てていると。
「ううん。ガンス」
「ガンス!? 渋すぎだろ!?」
「だって格好いいんだもん! 大砲は女のロマン! ちなみに冬花ちゃんは双剣ね」
「あははは! めっちゃそれっぽい!」
「そしてキャラ名はキルト」
「ぶははははは! それ! 完全にSA〇じゃん!」
「冬花ちゃん厨二系大好きだから。でも、本人の前で言ったらだめだよ? SA〇は厨二じゃない! ってガチ説教されるから」
「言わないって! てか、別に厨二でもいいだろ! 俺も厨二大好きだし!」
「まぁみんな好きだよね。黒田君はなに使ってるの? あ、待って! 当てるから! イメージ的に、やっぱ大剣?」
「まぁ、大剣も使うわな」
「え。その口ぶり、まさか全武器使う派!?」
ニヤリとして俺は頷く。
「まぁ、その時の気分次第だ。倒すだけならどの武器でも余裕だし。色んな武器で楽しみたいだろ?」
「なにそれ。ウェポンマスターじゃん!」
「よせやい。ちなみに琢磨は最強廚な」
「あははは! なんか納得!」
「まぁ、シリーズごとに最強武器は違うから、結局琢磨も全武器使えるんだけどな」
「あ~ん! ドラハンの話してたらドラハンしたくなっちゃったよぉ~!」
「だな……。気を付けないとコスプレそっちのけで当日まで遊んじまうぞ」
「容易に想像できる……」
二人ともオタクだから、ゲームの話なら無限に出来る。
が、今はこのくらいにしておこう。
なんて決意はあっさり砕け、俺達はトレーラーを見返す度にドラハン話に華を咲かせてしまう。
それはそれとして、一つ問題が浮上した。
「う~ん。やっぱりトレーラーの映像だけだとちょっと情報足りないかなぁ……」
朝比奈さんは女主人公の初期装備。
俺はトレーラーで一際異彩を放っていた、主人公に襲い掛かる黒甲冑の謎の狩人をやる事になっていた。
シリーズ初の対人要素という事で、このキャラにはかなりの注目が集まっていた。
見た目もいかにも暗黒騎士といった雰囲気で俺好みだ。
俺と朝比奈さんで男女両方の主人公をやるという案もあったのだが、朝比奈さんの勘によれば、初期装備のコスは被る可能性が高いと言う。
まあ、大人気の作品だから、みんな考える事は同じということだろう。
折角併せるならNPC側のキャラがいた方が世界観が広がって楽しいし、他のドラハンレイヤーにも喜ばれるだろうという事でこのキャラに決まった。
他のレイヤーを巻き込んでの大型併せとなれば、琢磨達にも勝てる算段が高いしな。
問題は、この謎の狩人がトレーラーに一瞬しか出てこないという事だった。
闇の中か現れて、主人公に向かって武器を構えるワンシーンのみ。
「う~……。これだと背中がどうなってるのかわかんないよ!」
どうにか背中が見えないかと、朝比奈さんがタブレットを横から覗き込む。
いや、無理だって。
「適当に作るわけにはいかないし。やっぱ別のキャラにしとくか?」
「やだ! もうあたしその気だし! 黒田君だってこいつのコスがいいんでしょ?」
「そうだけど、資料がないんじゃ作れないだろ」
「なんかないかなぁ……。雑誌の特集とか、他に資料あればいいんだけど……」
それでふと俺は思い出した。
「あ!」
「な、なに!? びっくりした!」
「試遊イベ! 30分の体験クエスト! たしかそれに謎の狩人も出て来るはず!」
その動画を見つけられれば、謎の狩人の全体像も分かるはずだ。
「あー……」
名案だと思ったのだが朝比奈さんの反応は今ひとつだ。
「それって9月のゲムショの話じゃない? コミケの後だよ」
流石は朝比奈さん。
ゲーマーだけあってその辺の情報はチェック済みか。
でも甘い。
「いや、そっちじゃない。最近海外のイベントで先行試遊やってたはずだ! クソ羨ましかったから間違いない!」
「それマ!?」
早速俺達はそれらしいワードで検索をかける。
幸運にも、そのイベントは昨日ドイツで行われたらしい。
ドイツ人のゲーム系ユーチューバーがプレイ動画を上げていた。
何を言っているのかさっぱりわからなかったが。
クエストの途中で乱入する謎の狩人の姿はバッチリ映っていた。
「これなら資料になりそうか?」
「なるなる! 完璧! 黒田君大手柄!」
大喜びの朝比奈さんが俺の両手を掴んでブンブン振り回す。
別に大した事はしていない。
それでも俺は、ようやく朝比奈さんに良い所を見せる事ができ、内心グッとガッツポーズを取るのだった。
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夏休みに近所に住んでるクラスのギャルがクーラーが壊れたとか言って毎日涼みにくるんだが……。 斜偲泳(ななしの えい) @74NOA
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