怖そうで怖くない少し怖い音楽室の話

霧野

音楽室の怪

 小学生の頃、音楽の授業中の話です。

 その音楽室は、正面に黒板とステレオセットがあり、右手窓側にグランドピアノ。入り口は黒板の左側にあります。

 生徒達の席は机がわりにオルガンが並び、後方は床が階段のように高くなっていく形状でした。

 私の席は音楽室の左手最前列、ドアの目の前です。


 授業が始まって間もなく、目の前の円筒状のドアノブがガチャガチャと音を立てて左右に回転しました。

 この日は授業前の出欠チェックでも欠席者はいなかったため、私は何か急用を知らせるために他の先生が入ってきたのだろうと思いました。しかしドアは一向に開かず、ガチャガチャと激しく動くばかり。

 もし間違って施錠されていたのなら、外からノックするなり声がかかるはず。

 私は不審に思い、両隣の席に声をかけ「ねえ、あれ…」とドアを指をさしました。すると友人達も異変に気づき、小さな悲鳴をあげます。その様子はすぐに周囲に広がり、ざわつき始めました。その間も、ガチャガチャと音をたて回り続けるドアノブ。席は階段状になっていますから、後ろの方の子達にもよく見えたと思います。


 私は手を挙げ、「先生、あの、ドア…」と言葉少なに声を上げました。

 反対の手にリコーダーを握りしめていたのは、不審者の可能性を考え無意識に武器にしようとしていたのだと思います。

 先生は依然音を立て続けるドアノブを見て、ギョッとしたように動きを止めました。が、それは一瞬。ツカツカとドアに歩み寄り、動き続けるノブを掴むと一気にドアを引き開けたのです。


 そこには、誰もいませんでした。

 手前に開くドアの向こうは、半畳ほどの空間。左側は壁で、コの字型にドアが並んでいます。

 正面に廊下とを隔てる鉄製の防音ドア、右手には音楽準備室のドア。今開け放っている音楽室のドア以外は両方ともピッタリと閉じており、小さな空間に人が身を隠せる場所はありません。ガチャガチャ回っているドアノブを掴んですぐに開けたのですから、そもそも隠れる時間もなかったはず。

 ドアの真正面に座っていた私も、近くの席の子達も見ていたので見間違いではないと思います。


 その後、何事もなかったように授業は再開されましたが、妙にシンとした雰囲気だったのを覚えています。奇妙な体験をしたのはそれきりです。


 あの時、ドアの向こうにいたのは一体誰だったのでしょう。

 あるいは、内側に?




おわり🚪

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