第40話 婚約破棄ですってよ
眠れないかと思っていたのだが、ルゼはベッドに横になるとすぐに眠ってしまったようである。昨晩に比べて頭はかなりすっきりしていた。
(……借りたドレスのまま寝てるし寝過ぎだし、迷惑かけてるうえに帰る場所はここしかないし、今後顔を合わせないわけにはいかないし、どんな顔でお会いすれば良いのか……)
ルゼはベッドの上で大の字になると、寝起きの頭で悶々と考えていた。ドレスは返さなくて良いとは言われていたのだが、一応洗って返しておきたい。もう昼になっているのだが、幸いなことに今日は学院がなかった。
(……なんだか夢から目が覚めたみたい……)
遅い起床を果たすと、昨日シャーロットが持って帰って置いてくれたのであろう自分の服に着替え、ドレスを洗いに井戸まで外に出た。
洗い方が分からなかったため結局水で洗い流しただけのようになってしまった。これは返さない方が双方にとっても良いのかもしれないと思いながら、濡れたドレスの肩の部分を持って左右に引っ張って温かい日ざしにぼんやりかざしていると、洗濯物を運んでいた侍女がついでにと持って行ってくれた。
(……手持ち無沙汰だ……)
シャーロットの検診に行きたいのだが、今日はシャーロットは本邸の方へ出向いているらしかった。クラウスも既に本邸へ戻っているらしい。
暇なときはいつも勉強・剣術・薬の調合などをして常に生き急いでいるルゼであったが、この日は何もする気が起きない。
「ルゼちゃーん!」
「うわあっ」
中庭でぼんやりと空を仰いでいたルゼの後ろから、アデリナが勢いよく飛びついてきた。アデリナはルゼの様子などお構いなしに話し始める。
「何してるの? 昨日殿下の婚約者になったにしては暗いね! 殿下とは別れて私と結婚しようか!」
「……別れませんし離れてください!」
ルゼはアデリナの顎を下から殴りながらそう言った。無駄に元気なアデリナの声につられてルゼも声を張り上げてしまう。
アデリナは数歩後退した後仁王立ちし、ルゼと対峙して叫んだ。
「勢いが大事なときもあるさ!! 私も魔術のためなら何でもやってきた! 君もやりたいことがあるならぼんやりしている暇はないし、過去の君がそう決断したのならそれが今後のために必要なことだったってこと!」
「……あなたはタガが外れているから……」
「外してるんだよ」
「小賢しい言い訳ですね」
「というか貴方が一番道理から外れてるでしょ。私に理を説かないでくださいね」
「……」
アデリナは明らかにルゼがクラウスと婚約した原因も知っていそうな口ぶりであった。ルゼの目的も知っているようである。
「もし間違ったと思うなら、今からやり直せると思うところからやり直せばいいだけ!」
「ほん……」
ちょっと良いことを言うじゃないか……。アデリナのくせに。
いつまで経っても暗い顔をしているルゼを無視してアデリナが叫んだ。
「よし! じゃあ今後何をするか叫ぼうじゃないか!」
「……え? いいですよ私は」
「勢い! 君は性格からして有言実行が板についているんじゃないかと思うんだ」
「叫びます!」
「よし!」
ルゼも無表情で腹から声を出してみた。
中庭で大声を出している二人を、使用人が怪訝な顔をして通り過ぎていく。
ルゼは少し考えると、大きく息を吸って大声を出した。
「えー……頑張る!」
「……? まあいいや。はい次!」
「考える!」
「そして! ·····あっ」
「時機を見て婚約破棄に承諾する!」
「へえ?」
「えっ」
ルゼはアデリナの気まずそうな顔を見て後ろを振り返ると、クラウスが本と剣を持って立っていた。口元は笑っているのにルゼを見下ろす目は冷えきっている。
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