次の日、家の玄関の横には蜘蛛の巣だけがあった。蜘蛛も蝶もいなかった。すいせいは少し悩んだのだけど、蜘蛛の巣を掃除して綺麗にとってしまった。するとそこにはなにもない、ただの日常の平穏な風景だけが残った。これでよかったのだ、とすいせいは思った。(掃除はとてもよいことだし)すいせいは「いってきます」を言って中学校に登校した。がんばって勉強して「ただいま」と家に帰ってくるときにも、玄関は綺麗なままだった。昨日あったできごとは、もうあんまり覚えていない。(昨日はずっと頭の中に残っていたのに……)きっともうすぐ私は蜘蛛が蝶を捕食した瞬間を見てびっくりしたことを生活の中でいつの間にか忘れてしまうのだろうと思った。それでいいのかもしれない。

 私は今日も元気だった。健康だし、生きることにはなんの問題はない。だから忘れてしまっていいのだと思った。(昨日は、ちょっとだけびっくりしただけなんだ)

 それからすいせいは私が大人になって、もしどこかで昨日のような風景をたまたま見たとしたら、そのとき私はどんなことを思うのだろう? と思った。十四歳の夏を思い出すのだろうか? 蜘蛛と蝶の思い出と一緒に。

 そのときの私はいったい世界のどこにいるのだろう? とそんなことをすいせいは玄関のドアを開けるときに思った。

 

 とても醜いもの 終わり

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とても醜いもの 雨世界 @amesekai

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