中間管理は24時間ずっと中間を管理します

ちびまるフォイ

中間管理職の最終到達点

辞令


〇〇君を世界で2人目の中間管理者とする。



掲示板に貼り出された辞令を見て目が点になった。


「おめでとう。君が中間管理者だよ」

「すごい。2人目だよ」

「さぁ、この中間ウォッチをつけて」


中間管理者が身につける時計を手首につけられた。

いったいなんなんだ。


「いや、俺はただの平社員ですよ。

 中間管理なんてそんなことできないですよ」


「大丈夫。中間を管理するだけなんだから、君にだってできるさ」


具体的に何をするかはわからなかった。

わかったのはお昼時の中華料理屋さんだった。


「はあ、お腹へった。今日は絶対ラーメン食べるぞ」


無類の中華好きとして会社では有名。

いつか中国に行って本場の味を楽しめたらと思う。


といっても、中間管理者になったのでそれもできるのかどうか。


「いらっしゃい。なににしますか?」


「それじゃラーメンを……」


言いかけたとき。

手首の時計から全身に電流が走った。


『警告。中間を選んでいません!』


「はい!?」


『メニューの中間を選んでください。あなたは中間管理者です』


「中間管理するってそういうことなの!?」


頼んだメニューは、ちょうどメニュー表の中間にある"野菜炒め"だった。


「へいおまち。野菜炒め」


「ラーメンがよかった……」


食事を終えて外に出ると、再び時計が警告を出す。


『警告。道の中央ではありません。中間を選んでください』


「いや車道になっちゃうよ!!」


そんなことは機械的な時計に判断つけられない。

車道の中央を堂々と歩く迷惑な人間になってしまった。


「なんて大変なんだ。中間管理者……!!」


自分が2人目だが、1人目も同じ苦労をしたのだろうか。

休日になると彼女とデートへと向かった。


「ねえ、私のことどれくらい好き?」


「もちろん最高にーー」


好き、と言いかけたとき再び警告。


『警告。中間を選んでいません。中間を選んでください』


もう電流が怖くて逆らうことができない。


「ねえ、どれくらい好きなのぉ?」



「す、好きと……嫌いの、中間くらい?」



その日が失恋記念日となった。

夜は枕を涙で流しながら月に吠えた。


「じゃあどうすりゃいいってんだよぉぉ!!」


中間管理者の辛さを嘆いたときだった。

開けっ放しの窓から変にこげくさい香りがやってくる。


夜の街なのに赤い灯りと黒い煙が立ちのぼっている。


「か、火事か!?」


すぐに消防へ連絡してから、火事の方へと向かった。


運悪くこの日は花火大会。

ごった返す人並みと細い道が災いして消防車の到着が遅れる。


火事の現場に集まった野次馬たちもオロオロするばかり。


「なかに誰か取り残されているかわかりますか!?」


「た、たしかこの家には高齢の人が住んでいたはず……」


「姿はもう見ましたか!?」


「さ、さあ……見てないな」


「まだ中に取り残されているかもしれないんですね!?」


服と身体を水で燃えにくくしてから家に飛び込んだ。

すると細い声が聞こえてくる。


「おーーい……おーーい……」


「そっちですか!」


家には足の悪いおじいさんが逃げ遅れていた。


「よかった。もう大丈夫です。早くいきましょう」


「ちがうんじゃ。わしなんかどうでもいい」


「何を言ってるんですか。大事な命でしょう」


「そうじゃないんじゃ。孫が……孫がまだ……」


おじいちゃんの指差す方角には、ガレキに挟まれた子供が見えた。

夏休みで遊びに来ていたのだろう。


おじいちゃんを抱き上げて外に出たら、

きっともう子供は助からないだろう。


子供を助けるためにガレキをどけたなら、

今度はおじいちゃんが焼け死んでしまう。


突然に突きつけられた究極の選択。


「あ、ああ……俺はいったいどっちを選べば……!」


どっちも助けられる方法はないのか。

考えていると時計が警告を鳴らした。


『警告。中間を選んでください。中間を選んでください』


「中間ってなんだよ!? どう助けりゃいいんだ!!」


『中間を選んでください。中間をーー』


もたもたしていたことで、家はますます火に包まれた。

煙を吸い込みすぎたことでやがて意識を失った。




次に目が覚めたのはあの世だった。


「ここは……。俺は死んだのか……」


「私語はつつしめ」


声に驚いた。

顔を上げると目の前には大きな閻魔様がいる。


「あの、俺は天国にいくんですか?

 それとも地獄にいくんでしょうか?」


「自分ではどう思っている?」


「悪いことも良いこともした気がします……」


「いかにも。お前は生前に火事の人を救おうとした。

 これは善行だ。天国行きに該当する」


「じゃあ……!」


「だが、結果として子供も高齢者もしなせてしまった。

 早く判断していれば少なくとも1つは救えたのに。

 これは悪行だ。地獄行きに該当する」


「やっぱり地獄……?」


「そうともいえる」


「ひとこと言わせてください。

 俺は世界で2人目の中間管理者なんです。

 もし中間管理じゃなかったら、2人を救っていました」


「ほう」


「そこをちゃんと検討したうえで判断してほしいんです!」


「ふうむ。では天国にーー」


言いかけたとき、閻魔様の身体がびくんと跳ね上がる。


「いや、だとしても、2つの命を救えなかったのは間違いない。

 やっぱり地獄にーー」


ふたたび身体がびくんと跳ねる。

いったいなんなのか。


「よし決めた」


閻魔様は木槌を鳴らして最終判断を行った。



「お前は天国てんごくでも地獄じごくでもない。


 中間をとって、中国ちゅうごくへ行くこととする!!」



足元の床が抜け、展開から中国へと真っ逆さま。


堕ちぎわに閻魔様の手首にきらりと光る時計が見えた。



「まさか中間管理の1人目って……」



閻魔様も自分と同じ中間管理時計を身に着けていた。

中国に行ってからは憧れだった本場の中華料理に大満足した。

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