第六章 夕立と共に……
夕立とは、夏の午後に突然、降り出す雨の事である。
うだるような暑さの夏の午後。
日曜日で会社が休みだったカスミは、友達とショッピングや食事を楽しみ、夕方、家に帰る為、バスに乗っていた。
先程まで、あんなに夏空で爽やかな空は、次第に黒雲に覆われてきた。
遠くで雷の音も、ゴロゴロと鳴り響いている。
バスの窓から、空を見上げながら、カスミは、眉を寄せた。
「やだな……夕立か。帰り着くまで降らなければいいけど。」
そんなカスミの願いも虚しく、バスを降りる頃、ポツポツと、雨が落ちてきた。
バス停から、カスミの家まで、急いでも、20分は、かかる。
『最悪……。』
カスミは、バス停から駆け出すと、家路を急ぐ。
雨の勢いは、ますます酷くなり、雷も空に稲光を光らせ、激しく鳴り響く。
バリバリバリバリと何かが割れるかのような音が響き、ドーン!!と激しく雷が鳴る。
「きゃあー!!」
思わず悲鳴を上げ、近くの公園へ入ると、大きな木の下に走る。
激しい雨で、全身びしょ濡れである。
濡れて、張り付く服を気持ち悪そうに、指でつまみながら、カスミは、妙な感覚に眉を寄せる。
公園の砂の地面を雨が激しく打ちつける中、誰かがバシャバシャと、走って来る音がする。
そちらに顔を向けたが誰もいない。
今度は、反対の方向から、バシャバシャと音が聞こえる。
振り向こうとすると、今度は、右……そして、左と、何人もの足音がする。
バシャバシャバシャ!!
激しく足音が響き、自分が何者かに、囲まれてるのが分かった。
相手の姿は見えなかったが、カスミは、何かの気配を感じていた。
そのうち、ハァーハァーと息遣いが聞こえ始める。
その息遣いは、カスミの耳元で聞こえ、カスミは、両手で耳を塞ぎ、目を強く閉じた。
「そんな事をしても、無駄だよ。」
頭上から、低い声が響いてきて、カスミは、思わず、パッと、上を見た。
全身びしょ濡れの子供が両足を木の枝に、引っ掛けて、ぶら〜んぶら〜んと、ぶら下がっている。
いや、身体つきは、子供だったが、ニヤリと笑った、その顔は、シワシワの老人の顔だった。
「ぎゃあああ!!」
物凄い悲鳴を上げて、カスミは、無我夢中で走り、土砂降りの中、公園を飛び出た。
家に辿り着き、玄関のドアを開けたカスミは、丁度、傘を持って出ようとした母親と、ぶつかる。
「お母さん……!!」
カスミが半べそがかき、声を上げ、抱きつくと、母親は、驚いたように、声を上げた。
「な、何ですか!?あなた!誰なんです?!」
母親の声に、カスミは、言う。
「カスミよ!」
その言葉に、母親は、少し呆れたように、こう言った。
「何処の、おばあちゃんか知りませんけれど……家を間違えていますよ。」
「えっ……?」
母親に言われ、カスミは、玄関の靴箱の上に置いてある鏡を見た。
その顔は、あの公園でみた子供の顔のように、シワシワの老人の顔だった。
逢魔が時 こた神さま @kotakami
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