第12話 まかせて

 んー気持ちのいい朝だ。カーテンを開けると青い空が見えた。今日は快晴、まだ梅雨はきていないみたいだね。ツクモンをぎゅっと抱きしめる。相変わらず喋らないし、動かないけど、わたしはちゃんとそこにいることを知っている。だからこれは勇気をわけてもらっているんだ。さぁ、待っててね、ヒトミちゃん、それにAちゃん。


「ミチカ〜」

「いま行くよー!」

「あら? 起きてたの? 珍しいわね」


 一階のお母さんが少し驚いてる。昨日あんなに学校を走り回ったのに、目覚めはスッキリしてるし、すごくよく寝たって感じがするんだよね。おかげで早起きもできたし、今日はこの前カオリンに教えてもらったオシャレお団子スタイルで気合いをいれちゃおっと。


 ◇


 さあ、勝負のお昼休みだ。わたしは二年三組の教室の前に来ているんだけど、隣にはカオリンと……なんか当然のようにデイタンもいる。泥団子作っててもいいんだよ?


「俺はただのオブザーバーだ。立会人という意味だな」


 うん、意味不明だわ。


「……ミッちゃん、大丈夫?」


 カオリンは心配そうだ。そんな顔しないで。カオリンが付いてきてくれただけで心強いんだから。カオリンの手をぎゅっと握って大きくうなずく。大丈夫だよ。

 さあ大きく息を吸って、元気よくいこう。


「ヒトミちゃーん、それに他のみんなも、今から十三階段ドキドキ探検ツアーを開催しまーす! 興味のある子はついておいでー! あっ、わたしは五年一組の喜多ミチカだよ」


 あ、あれ? みんなキョトンとしてる。


「よかったら、ミッちゃんについて来てね」

「面白いものが見れるかもしれんぞ」


 カオリンの優しい声に続いて、ニヤついたデイタンが声をかけてくれた。というかデイタンはなんでこんなに楽しそうなんだろうか。


「キュピガのカオリちゃんだ!」

「え、ほんもの?」

「すごいすごい!」

「マスター加藤だ!」

「鉄よりかたい泥団子を作る人だ」


 この二人はさすがだなぁ。鉄よりかたいとか意味わかんないけど。


「あの、これどういうことですか?」


 桂川ヒトミちゃんが不安そうに近づいてきた。上目遣いでかわいいなぁ。よしよし、ギュってしちゃろう。

 

「せっかくだから、みんなにも見てもらおうと思ってね。昨日お話ししてくれたお友達はいるかな?」


 ヒトミちゃんがゆっくり振り返る。視線の先にうつむいて小さくなっている女の子がいた。声しか聞いてないけど、たぶんあの子がAちゃんだ。わたしはその子の席までいって、手を差し出す。


「よかったらあなたも来て。あなたも、ヒトミちゃんも嘘つきじゃない。そのことをわたしが証明してあげる。ぜんぶまるっとお姉さんにまかせておいてよ!」


 Aちゃんが不安そうにこっちを見上げてきた。わかるよ。謝りたかったんだよね? そのきっかけが欲しかったんだよね? 大丈夫、さあおいで、二人ともなんにもわるくないんだから。

 左側にヒトミちゃん、右側にAちゃんが少しおくれてついてくる。Aちゃんの本当の名前はアイちゃんだって。階段の前で二人の手を握る。後ろからはぞろぞろ二年三組のお友達がついてきている。結構たくさんいるから、他のクラスの子もいるのかもね。


「じゃあ、よかったらみんなも数えておいてね。いくよ? いーち」


 左隣のヒトミちゃんの、さらに左にはカオリン。そして右側のアイちゃんの横にはなぜかデイタン。五人で横一列に並んで階段を登る。


「にい」


 ツクモンもリリ先生も最初はムリだと言っていた。


「さん」


 十三階段は力のないあやかしだから、現実の世界でたくさんの人とふれ合うことはできないんだって。


「よん」


 そこにあるだけのあやかし――草みたいなものだって。


「ごお」


 でもツクモンはこうも言っていた。


「ろく」


 信じる人間がいれば、力のないあやかしでも頑張れるんだって。


「しち」


 かくれんぼの時、十三階段さんはその記憶をわたしに見せてくれた。優しくて、温かくて、美しい光だった。


「はち」


 あれは力のないあやかしに出来ることなのかな?


「きゅう」


 違うよね。


「じゅう」


 わたしは知っているよ。


「じゅういち」


 このあやかしの優しさを。


「じゅうに」


 このあやかしの本当の力を。わたしは信じて疑わない。


 左右から息を呑む音が聞こえた。階段の下からは興奮した声が聞こえてくる。

 そうだ、を登る前に、みんなにひとつ秘密を教えてあげよう。わたしは振り向いて人差し指を口に当てる。しーのポーズ。


「十三段目を踏んだ人は不幸になるんじゃなくて、幸せが訪れるんだよ、わたしみたいにね! じゃあみんな、いくよ?」


 えへへ。十三階段さん、今日わたしの勝ちだね。


「じゅうさんっ!!」


 階段の下で大きな歓声があがった。ヒトミちゃんとアイちゃんが泣いている。よしよし、二人ともよく頑張ったね。


「ごめんね、ヒトミちゃん。ヒトミちゃんが信じてくれたのに、わたし怖くなって、それで……本当にごめんなさい」

「わたしこそごめんね、アイちゃん。アイちゃんの気持ちを考えずにひとりでムキになって、本当にごめんなさい」


 うんうん。よかったね、仲直りできて。二人ともぎゅーっとしちゃろう。


「……ミッちゃん」

「はっはっは。実に愉快だ。キタミよ、やはりお前は面白いな。次も必ず俺を呼べよ?」


 カオリン、ありがとう。デイタンは……よくわかんないけどありがとう。次ってなに? 泥団子作ってなよ。


「こらー、階段で遊ぶなよーって、喜多がなんでこんなとこにいるんだ? それに天上も加藤も。おまえらただでさえ目立つんだから、こんなところでかたまるなよなー」


 おっと、武田先生こそ、なんでこんなところにいるのさ? 見回り? そんなのあるんだ。先生は大変だなー。ん? デイタン、なんでそんなにじっと武田先生のことを見ているの? 変なの。まあいいや、じゃあ私たちは帰ろうか。

 

 ◆◇


 ――システムエラー。

 ――個体名、喜多ミチカの現実世界への干渉を確認。想像拡張領域の再評価を行います。想像拡張領域をSSSと判定。当該プレイヤーの保護を優先。障壁を強化します。

 ――障壁の強化に失敗。外部からの干渉。詳細不明。ランクA以上のあやかしによる攻撃と推定。

 ――アップデートを要請。対高ランクあやかし用パッチのダウンロードを開始。失敗。通信障害を確認。原因不明。ランクA以上のあやかしによる攻撃と推定。

 ――システムエラー。

 ――システムエラー。

 ――システムエラー。

 

 ――うるさい。私のミッちゃんにさわるな。


 ――システムダウン。

 ――緊急措置として本戦用モードに移行します。クリア。


 ——引き続き『あやかしバトル夜十時』をご利用いただけます。なお、一部プロテクト機能が解除されるのでご注意ください。


 ――それでは今後とも良きバトルを。

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