第11話 かくれんぼ
十三階段さんとかくれんぼをすることになった。うん、意味がわかんないね。ていうか、わたし今、十三階段さんに座ってるはずなんだけど……。
「あれ? いつのまにか十二段になってんじゃん!?」
「なっはっはー。かくれんぼとはまたずいぶんとやつに有利なルールになったもんじゃな。さぁミッちゃん、あらためて十三階段を探すとするか」
へー。有利ってことは、十三階段さんはかくれんぼが得意なんだ。でも探し方はもうリリ先生に教えてもらったし、そんなに難しくないんじゃないかなこれ?
『ちなみに今回のかくれんぼの範囲は本校舎のみとします。別の建物、特に旧校舎には絶対に入らないでください』
おっけー! 本校舎だけなら、なおさら楽勝だよ。だって階段は東と西の二かしょしか無いんだもん。ふんふふーん♪
◆
「……ツクモンさんやい、わたしは東と西の階段を一階から三階まできちんと数えたと思うんだけど、これはどういうことですか?」
「ぜんぶ十二段じゃったな。かぞえ間違いかもしれんのう」
そうじゃったか。よし、じゃあもう一回かぞえてみますか。
「はあはあ……ツクモンさんやい、もう一回どころかもう三回かぞえても、やっぱりぜんぶ十二段なんですけど! 疲れたんですけど!」
「ミッちゃん、あやかしは疲れたりせんから気のせいじゃ! もっと心までレッツあやかしじゃよ!」
おっけー。ツクモンはまじでなんの役にも立ってないけど、そばにいると元気が出るから心強いね!
「それはそうと、ずっと気になっておったんじゃが、ミッちゃんはなんでいっつもパジャマなんじゃ?」
「え、寝るときにパジャマなのは当たり前じゃない?」
まったく、なにを言っているんだか、このツクモンは。わたしだって乙女なんだからパジャマで学校を走り回ったりはしたくないのだよ。でもかわいい服でベッドに入るのはもっとイヤだしさぁ。
「ミッちゃんよ、これは夢ではないが、同時に夢みたいなものでもあるんじゃ。だから着てる服などいくらでも変えられる。特にミッちゃんなら余裕じゃ。ほれ、想像してみい、ミッちゃんのお気に入りの服を」
そうなの? 最近のお気に入りといえば、カオリンとお買い物に行った時に、カオリンが選んでくれたあの服かなぁ。袖にリボンのついた白のTシャツと、少しワイドのデニムが、ビンテージ風でかっこいいんだよね。「ミッちゃんはかわいい系だけど素材がいいから、こういうのも似合うよ」だって。もーカオリンてばほめすぎだよ。思い出したらニマニマしてきちゃった。しかも、この服はお母さんがお誕生日に買ってくれた水色のショルダーバッグともよく似合うんだよねー。
「って考えてたら、いつの間にか服変わってんじゃん! 素敵だよわたし!」
「おお、最近の小学生はオシャレじゃのう。よお似合っとるぞ、ミッちゃんよ」
『これはそれほど簡単なことではないのですが……さすがですね。でも時間はそれほど残っていないですよ、ミチカ』
そうだったよ。でもオシャレを手に入れたわたしは一味違うのですよ!
◆
……おしゃれ、関係なかったわ。何回数えても十二段なんだけど! 十三階段さん、どこにいるのよまったく。
「ミッちゃんよ、あれはなんじゃ?」
どれどれ? うわっ! なんかオレンジ色のぼんやりとした光が階段を登ってる? よくわかんないけど、もしかしてアレが十三階段さんの本体だったりするの?
「よし! ツクモン隊員! 追いかけるよ!」
「了解じゃよ!」
オレンジ色の光は追いかけている途中で消えてしまった。なんだったのだろう。
「ミッちゃん、今度は下じゃ!」
ツクモンの短い腕(?)が指す方向を見ると、またオレンジ色の光が跳ねるように階段を下っているのが見えた。その光は階段を降りたところで消えてしまったけど、入れ替わるようにしてまた新しい光が生まれた。そのうち光がどんどん増えてきた。わたしの背より小さいものから大きいものまで、たくさんの温かくて優しい光が、わたしの前を、横を、後ろを颯爽と通り過ぎていく。そのうちのひとつの光がわたしに触れると、頭の中に誰かの声が流れ込んできた。
――ん? いま十三段なかった?
――そんなわけないだろ。それよりサッカーやろうぜ!
これは……この学校の誰か? 知らない人な気がする。どういうことだろう? 階段の真ん中でぼうっと立ち止まっていると、今度は少しだけ冷たくて鋭い光が触れた。
――ばかばかしい。非科学的だ。
こ、この声とこのしゃべり方は……もしかしてデイタン? いまよりちょっと声が幼くてかわいいかも。うわっ。今度はなんかひときわ明るい光がつっこんできた。
――ハイパーミラクルスーパー大ジャーンプ! ミチカせんしゅ、着地もかんぺきです! およっ? なんかいつもより飛べたきがする! てんさいかも!?
――ミッちゃん、あぶないよ~。
おうふっ。これは、わたしでござるか。それにこのかわいらしい声はカオリンかな。そういえば、低学年の頃、よく大ジャンプをして先生に怒られてたっけ……今もだけど。
「ツクモン、これって……?」
「ああ、人間で言うところの記憶じゃな。十三階段そのもの、とも言えるがのう。しかしキレイなもんじゃなぁ」
そうだね。たくさんの光が輝いて、階段を埋め尽くしている。お祭りみたいだ。その中で、ひとつだけ淡い青色をした、寂しそうな光があった。わたしはそっとその光に手をふれてみた。
――ごめんなさい……ヒトミちゃん。ごめんなさい。私が変なことを言ったせいで。お友達になってくれたのに。本当にごめんなさい。
ヒトミちゃんのお友達、たぶんAちゃん、だよね? 大丈夫だよ。全部お姉さんにまかせておいて。
「さあ、ミッちゃんよ。そろそろこのバトルに決着をつけようかのう」
「そうだね!」
もしかしたらツクモンは初めからわかっていたのかな。そういえば、最初に言ってたもんね。そこにあるだけのあやかしだって。
わたし達は、元の場所――最初に十三階段に出会った場所に帰ってきた。下から指を指して数えてみたけど、やっぱり今も十二段にしか見えない。本当にかくれんぼが得意なんだね。
十三階段さんは、こんなふうに上手に隠れて、でもずっと見守ってくれていたんだ。だって、さっき見せてくれたあなたの記憶はどれも本当に優しかったもん。ありがとう。じゃあ、いくよ?
わたしは階段を一番上まで登ってから、さらに一歩を踏み出した。
もう、知っているから。
ここにもう一段あることを、わたしはちゃんと信じているから。
「十三階段、みいつけたっ!」
ピロリン!
『勝利条件を満たしました。喜多ミチカ/ツクモンチームの勝利です。勝利チームには討伐ポイントが付与されます』
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