第9話 桂川ヒトミ

 ヒトミちゃん、かわいい。一年生もかわいいけど、二年生もかわいいよね。なんかちょっとオシャレなんかしちゃってさ。グレーのデニムとオーバーサイズの黄色のTシャツなんて、先月号のキュピガでカオリンが着てたやつ……て、この子もカオリンのファンか。うちの学校、カオリンに憧れてる子、多いもんね。うんうん、わかるよ。カオリンはかわいいもんね。よしナデナデしちゃろう。


「な、なに? ていうかだれ? カオリちゃんと、加藤……さんは知ってるけど」


 カオリンのことチラチラ見て、かわいいなぁもう。しかしデイタンは二年生の女子にも知られているのか。さすがマスター加藤。やるではないか。


「桂川さん、私のことを知っているのにミッちゃん……喜多ミチカさんのことを知らないなんて勉強不足じゃないかしら。それとミッちゃんから離れてくれる? 話なら私が聞いてあげるから」

「これは天上カオリの言うことに一理あるな。まさかキタミを知らない下級生がいるとは驚きだ。それと話なら俺が聞いてやろう」


 この二人はちょっとアレだな。頭はいいけどアレだわ。ほらヒトミちゃんが泣きそうになってるじゃん。よしよーし。怖くないからね。


「ヒトミちゃんも十三階段を見たんだよね? わたしもなの! あ、わたしは喜多ミチカ。ミチカ、ミッちゃん、キタミン、呼び方はなんでもいいからね!」

「き、喜多さんは……信じてくれるの?」

「もちろん信じるよ! でも今数えたら十二段でさあ、意味わかんないよね!」


 あ、あれれ? ヒトミちゃんが泣き出しちゃった。よしよーし。ゆっくりでいいからね。

 ヒトミちゃんは泣きながらも昨日あったことをわかりやすく教えてくれた。きっとカオリンみたいに頭がいいんだろうな。

 話の始まりは、ヒトミちゃんと仲が良かったお友だちが、十三階段を見たと言い出したことなんだそうだ。かりにAちゃんとしておこうか。Aちゃんの話を聞いた同級生が数えてみたけど階段は十二段だった。それで同級生はAちゃんのことをうそつきだと言った。そんな中、ヒトミちゃんだけはAちゃんのことを信じて毎日階段を数え続けた。そしてついに昨日、十三階段に出会ったと。ヒトミちゃんはクラスのみんなに向かってAちゃんはうそつきなんかじゃなかったと大きな声で言ったそうだ。だけどやっぱり他の人が数えても十二段で、ヒトミちゃんもみんなからうそつきだと言われたと。それでもAちゃんはうそつきじゃないと叫んだところ、肝心のAちゃんが「あれは冗談だった」と言っちゃったんだって。そこからはヒトミちゃんひとりが悪者にされて、それでムキになって反論した結果、大騒ぎになってしまったと。


「ヒトミちゃんは優しいね。今もその子の名前を言わないのは、その子を守りたいからなんだよね」


 ヒトミちゃんが声をあげるのを我慢して泣いている。強い子だ。頑張ったね。


「ミッちゃんみたい……」


 カオリン、ヒトミちゃんはわたしなんかよりずっと強いよ。だからお願い、ちょっとだけ助けてあげて?


「ミッちゃんのお願いならなんだってきく。私の話なら、女の子たちは少しくらいは聞いてくれると思うし」


 ふふ。さすがカオリン。話が早いな。それに少しどころか、ばっちり聞いてくれると思うよ。カオリンはキュピガの専属モデルだけど、それだけじゃなくてすっごく優しいんだから。問題は男子だけど……。


「ならば、男子は俺から話をしてやろう。なに、下級生向けの泥団子講座も開催しているからな」


 意味わかんないけど、すごいよデイタン。さすが泥団子マスター。意味わかんないけど。


「つまりキタミよ、俺と天上カオリの知名度を使って、ありもしない十三階段の噂を、あたかも本当であるかのようにいつわろうということだな?」


 デイタンの言葉にヒトミちゃんがビクッとした。デイタンは難しくて意地悪な言い方をするからなぁ。大丈夫だよ、ヒトミちゃん。信じるって言ったじゃん。わたしには最近できた心強い友達がいるんだもん。


「デイタン、合ってるけど合ってないよ。ありもしない噂なんかじゃない。わたしがそれを証明しょうめいしてあげる!」


 さぁ、バトル開始だよ、十三階段!

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