第8話 混ぜるなキケン

 揚げパンさいこー! 神でしょ。ごめんね、ツクモン。揚げパンはツクモンよりも神かもしれない。そして加藤よ、いやデイタきゅん、わたしはキミのことを勘違いしていたみたいだよ。揚げパン半分くれるなんて感動ですよ! いや、朝ごはん食べすぎて、お腹いっぱいなんだっけ? それじゃあしょうがないよね。うんうん、わたしが美味しく食べてあげるからね。泥団子? いいと思うよ。うんうん。


「では、キタミ、二年の教室に向かうぞ」


 うん、そうだね……ってちょいまちー!


「え、加藤くん、ほんとに来るの? 泥団子作ってなよ」


 泥団子マスターが泥団子作らないでどうするのさ? ほらクラスの他の男子が不安そうにこっちを見てるよ。マスター、今日は泥団子作らないのかなぁって、捨てられた子猫のような目をしているよ……って、やっぱうちのクラスの男子、おかしいわ。


「俺とて休息は必要だからな。それに揚げパンを半分食べてもらった礼だ。付き合ってやろう」


 そっか。お礼ならありがたく受け取っておかなきゃね。揚げパンくれたうえに手伝ってくれるとか、やっぱり加藤くんはいい人なのかもしれない。特別にデイタンと呼んであげることを、前向きに剣道しましょう。めーんってね!


「なぜ素振りをしている? また愉快な勘違いをしてそうだな。しかしキタミのチョロさは国宝級だな。これからもその幼稚園児並みの純粋な心を大切にしろよ。ああ、勘違いするなよ。もちろん褒めているからな。なんせ国宝級だぞ?」


 お、おお。おっけー。褒めてるなら問題なしだよ。ありがとう、デイタン。


 ◇


 さてさて、来ましたよ、例の階段。ふっふっふー。わたしは知っているのですよ、この階段が本当は十三段であることを。じゃあ、張り切って数えるよー。


「いち、にぃ、さん、……じゅういち、じゅうに!」


 あ、あれ? もう一回……。


「いち、にぃ、さん、……じゅういち、じゅうにっ! うっそーん! 十二段しかないんだけど! なんでっ?」


「キタミよ。俺はもうすでに愉快な気持ちでお腹がいっぱいだ。揚げパン半分の元はとれたと言っても過言ではない。だが、せっかくだ、最後まで付き合ってやろう。昨日大騒ぎしたという生徒に会いに行くぞ」


 あ、うん。そうだね、その子ならなにか知ってるかもね。でもちょっとまって、リーダーはわたしでお願いします。


「あら? ミッちゃんと……お名前は知らないけれど、どこかの一般男子生徒さん、こんなところでナニヲシテイルノ?」


 わぁ、カオリンこそ、こんなところでなにしてんのさー。もしかしてわたしのことが心配で来てくれたの? 優しいなーもう。ぐりぐりしちゃお。


「……天上カオリ。お前こそこんなところで何をしている? ストーカーは犯罪だと知らないのか? それと俺の名前なら前回の全国統一テストの上位成績者欄にのっているぞ。お前のひとつ上だ。探してみろ。まあ一番上だからすぐに見つかると思うがな」


 カオリン、震えてるの? 寒く……はないけど、なんかちょっとひんやりするかも? わかんないけど、よしよし、いい子いい子。


「……泥遊びだけしていればいいものを。私のミッちゃんに……私の私の私の私の」


 おーい、カオリン? 大丈夫? あなたのミッちゃんはここにおりますよ。ほれほれ、撫でていいのだよ。


「ふー……ミッちゃんありがとう、もう大丈夫。加藤くんだったね。ごめんね、名前忘れちゃって。私、加藤くんみたいに賢くないからまたすぐに忘れると思うけど許してね。じゃあ行こうか、二人とも。例の生徒の名前は二年三組の桂川ヒトミさんだよ。加藤くんは知らなかったみたいだけど、私は知っていた。よかった、私でも役に立てることがあって。ねぇ、ミッちゃん?」


 うんうん。さすがカオリンなのですよ。もっとぐりぐりしとこ。相変わらずいい匂いだなー。


「よくやった、天上カオリよ。特別にテンカと呼んでやってもいいぞ。俺が作る泥団子のように美しい響きだと思わないか?」

「冗談は存在だけにしてくれるかな、加藤くん。戦争がしたいのならあとで付き合ってあげる。でも今はだめよ、ミッちゃんの前だもの」


 んー、これはあれかな? ケンカするほどラブラブずっきゅんなアレなのかしら。うふふ、青春ですねー。うぅ、それにしても抱きついてるカオリンの体がさっきから冷たい気がするんだけど、気のせいかな? もにゅもにゅして温めてあげよう。

 お、誰か来た。二年生の子かな?


「ねえ、お姉ちゃんたちも私のことをうそつきって言いにきたの?」


 えーっと……もしかして桂川ヒトミちゃん?

 

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