第6話 天上カオリ
ツクモンがベッドの横に転がってる。ギュってしてみたけど、ツクモンは普通のフェルト人形で、全然冷たくなかった。やっぱり夢だったのかな。
そうだスマホ。登録されているアプリは……昨日と変わっていない。
「へ、ヘイ、リリ先生?」
……だめだ。なんの反応もない。
今日の朝ごはんはお父さんが作ってくれた。夜遅くに帰ってくるお父さんは、朝ご飯を作ってくれることが多い。レタスとソーセージをはさんだロールパンに、レトルトのコーンスープ――わたしが大好きなメニューだ。おいしい……けど、さみしい。
「ど、どうしたミチカ? 今日はおかわり二回だけだなんて……。お父さんのパン、おいしくなかったか? ご、ごめんな、お母さんみたいに上手に作れなくて」
ううん。お父さんのご飯は、そりゃお母さんに比べたらテキトーだけど、いっつも美味しいよ。ただ、なんとなくさみしいだけ。
「お母さん、またフェルト人形を作ったの。ツクモンていうんだけど、冷たくて、きっと暑いところが苦手だから、わたしが学校に行っている間、涼しいお部屋に置いといてくれない?」
「……それは大事なことなの?」
「うん」
「わかったわ。今日はテレワークだから、書斎に置いとく。冷房入れるしね。それでいい?」
うん。お母さんはやっぱり優しい。わたしが変なお願いをしても、それが大事なことなら、ちゃんと聞きいれてくれる。大事なこと……だよね?
登校中、門の前でカオリンが後ろから声をかけてくれた。五年三組の
「ミッちゃん、おはよー! 今日も私のミッちゃんがかわいいよぉ! そのデニムのサロペットは学校に着てくるのは三回目だね。あっ、でも中の黄色のTシャツは初めて見たかも。うんうん、その組み合わせもすっごくかわいいよ!」
「カオリン、おはよう! ありがとう、お洋服は全部カオリンが教えてくれたおかげだよ。それに今日のカオリンもカオリンがカオリンしててすっごくかわいいよ!」
「むむ、ミッちゃん、今日はちょっと元気がないな? いつもはカオリン、カオリンてあと百回は言ってくれるのに」
いつものわたしすごいなぁ……。でもカオリンにも心配かけちゃって、よくないよね。よし、元気だそう。いい夢みたってことでいいじゃんね。
「おっ! ミッちゃん、元気でてきた? うれしー! ねえねえミッちゃん、そういえば知ってる? 最近またうちの学校で十三階段が出たって話。結構ウワサになってるんだよ。二年生の子が見たんだって!」
いま、なんて?
じゅうさんかいだん?
「カオリン! そのはなし、くわしく聞かせて!!」
「うわっ、ミッちゃん。腕つかむ力が強いよ! ドキドキしちゃうよ!」
やっぱりカオリンは最高だ。夢なんかじゃなかったんだ。
カオリンの話によれば、二年生の女の子の一人が東側一階の階段で、十三段目を踏んだらしい。だけど、その子の話を聞きつけた同じクラスの男の子たちが数えてみたところ、やっぱり階段は十二段だったというのだ。そこからは「うそだ」「本当だ」の大合唱で、一時授業が中断するほどの大騒ぎになってしまった、ということがつい昨日あったらしいのだ。全然知らなかった。
「ありがとう! カオリン、大好き! 今日のお昼休みにその子のところに行ってみるね」
「きゃっ! ミッちゃんてば大胆! は、恥ずかしいよ。でもミッちゃんの役に立てて嬉しいなぁ……て、ミッちゃん、その子に会いに行くの? なんで?」
女の子には覚悟を決めて立ち向かわなきゃいけない時があるの、ってお母さんが言ってたのですよ、カオリン。
「うわーん、私のミッちゃんが、年下の女子にとられちゃう~」
もーかわいいな、カオリンは。よしよし。カオリン大好きだよ。こんなときは抱きしめて背中をさすってあげれば落ち着くのですよ。でもカオリンのおかけで確信を持てた。昨日のあれはやっぱり夢じゃなかったんだ。それにツクモンもリリ先生も、また明日って言ってたから、きっと今晩も会えるんだ。よーし、そうと分かれば十三階段のことを調べて、あの二人を驚かせてあげようっと。
「ねぇ、ミッちゃん。これは独り言みたいなものなのだけれど……」
ん? どうしたのカオリン、そんなにまじめな顔して。
「もしも、もしもね。すごーく悪いやつ……例えば、この世のモノじゃない
……カオリン?
「ううん、なんでもない。じゃあミッちゃん。今日も一日楽しく! だよね?」
「う、うん。今日も一日楽しく! だよ。カオリン!」
パチン。
今日もカオリンとハイタッチをして五年一組の教室の前で別れた。
カオリンは三組で別のクラスなんだよね。後ろ姿もかっこいいなぁ。いつも通り、すごい注目浴びてるし。まあ本物のモデルさんなんだから当然だよね。
「……さない……F……ごときが」
ん? カオリン、いまなんか言った?
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