第5話 十三階段

 なんか急に始まったんだけど。十三階段ってなに? 聞いたことがあるような、ないような。ていうか、そもそもわたしはなんでこんなことをしてるんだっけ? まぁいっか。なんか楽しそうだし。


「ミッちゃんよ。まずは十三階段とやらを探すとするか」

「おっけー。ツクモンは場所がわかるの?」

「もちろんわからんよ!」


 んが! なんだろう、ツクモンは誰かに似てる。このまったく役に立たないのに、ちっとも悪びれないどころか、なんならちょっと偉そうなこの感じ……誰だっけ? まあいいや。じゃあ、次。スマホに話しかけるときってなんかちょっと緊張するよね。特に最初の一言。


「ヘーイ、リリ先生! どこにいけばいいの?」

 

『……今回はチュートリアルですので手順を簡単にご説明しますが、次回以降はご自分でお考えください。それと本機に呼びかける際に「ヘーイ」は不要です』


 うわっ、ホントに先生だ。自分で考えなさいってよく言われるんだよね。えーっと、算数、国語、理科、社会、英語で言われたかなぁ……。


『……て、手順をご説明します。十三階段はその名の通り、十三段ある階段です。この学校の階段は本来すべて十二段ですので、数えながら登るなり、降りるなりすればすぐに見つかるはずです』


 おお、さすがリリ先生、頼りになるなぁ。それに十三段目の階段の話は聞いたことがあるかも。あるはずのない十三段目を踏んだ人は不幸になっちゃうんだっけ? ニ年生の時に一瞬だけ流行った覚えがあるんだよね。なんかちょっと怖くなってきちゃった。


「大丈夫じゃよ、ミッちゃん。ウチがおるからのう。弱すぎてなーんもできんがな。なっはっはー!」


 おお、全然頼りにならないけど、ツクモンは神様だもんね。それになんといってもわたしの最高傑作ですから! よーし元気が出てきた。

 あ、そういえば武田先生みたいに懐中電灯とかあったほうがいいんじゃないの?


『ものを視る仕組みが人間のそれとは異なりますので、光がなくても問題ないはずです』


 そういえば、電気もついてなくて暗いはずなのに、よく視えてるわ。なんかちょっと変な感じだけど、これならなおさら怖くなくていいね!


「じゃあ今は本校舎の三階にいるから、西側の階段から一階まで降りて、次に東側から登りますか。ツクモンもリリ先生も一緒に数えてね」

「おっけーなのじゃ」

『……』


 えへへ、なんだか楽しいなぁ。よーし気合い入れて数えますか。まずは三階から二階へ降りるよ。


「いち、にぃ、さーん、しぃ、ごぉ、ろく、しち、はち、きゅう……からのミチカ選手の大ジャーンプ! 着地も完璧です! あれ? 何段だった?」

『……十二段です。もう少し真面目にやってください』

「ひーお腹痛い。ミッちゃんがおばかすぎてお腹痛い!」


 ……くっ、怒られてしまった。しかもツクモンがゲラゲラ笑ってるし。あいかわらずあんまりかわいくないな。まったくもう。じゃあ、真面目に数えますか。


 ◆


 んー、一階まで降りてきたけど、西側の階段はぜんぶ十二段か。東側はどうかな。こっちは二年生、四年生、六年生側の階段だから、五年生になってからはあんまり使ってないんだよね。じゃあまずは一階から最初の踊り場までね。


「いち、にい、さん、しい、ごお、ろく、しち、はち、きゅう、じゅう、じゅういち、じゅうに、じゅうさんっと」


 ……ん? んん? おりょりょ。もっかい数えてみよう。


「いち、にい、さん、しい、ごお、ろく、しち、はち、きゅう、じゅう、じゅういち、じゅうに……じゅうさんっ!! ぎゃー! 十三段じゃん! 二回も踏んじゃったよ! どーしよう不幸になっちゃうよ! もしかして明日の給食ってキノコスープだっりする!?」

「落ち着くのじゃ、ミッちゃん。さっき、ミッちゃんの教室で見たが、明日の給食は揚げパンって書いてあったぞ」


 よっしゃー! 揚げパン大好き! なーんだ、不幸どころかむしろ幸運じゃん。


『おつかれさまです。これが今回のターゲット、十三階段です。種別はその他で、ランク外のあやかしです』

「まあなんじゃ、うわさ話なんかで自然発生する、人間の世界でいうところの草みたいなものじゃな」


 く、草なんだ。あやかし界の草はヘンテコだなあ。そういえば、リリ先生は討伐って言ってたっけ? 倒すってこと? 草みたいに引っこ抜くの、この階段を?


『そろそろ十二時になりますので、今日はここまでとしましょう。討伐についてはまた明日ご説明します。おつかれさまでした、ミチカ。いい夢を』

「もうそんな時間か。人間の時の流れはやはり早いのう……ミッちゃん、また明日なのだ」


 え、待って。もう少しだけ……あれ、頭がぼーっとする……せっかく……友達……なれ……のに……。


 ◇


「ミチカー! そろそろ起きなさい! 学校に遅れるわよ!」


 あれ? お母さんの声……もしかして、ぜんぶ夢だったの?

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