第4話 チュートリアル

 つまり、わたしは一日に二時間だけあやかしになっちゃったてこと? あちゃー。ごめんなさい、お母さん、お父さん。あとの二十時間はちゃんと元気に人間しますので許してください。


「あとの二十二時間じゃな。分数以前の問題じゃ」


 んがー! 細かいのよ、このヘンテコ最高傑作めっ! だいたいあなたは何者なのよ?


「ウチは付喪神みたいなもんじゃ。やっと自己紹介できるわい。おぬしが作った個性的な依代に宿っておる、なんの力も持たぬ最低ランクのあやかしじゃ。よろしく頼むな」


 へーすごっ。神様が宿っちゃうなんて、やっぱわたし天才じゃん。「個性的」がほめ言葉なのも知ってるよ。仲良しのカオリンが「もちろんほめてる」って言ってたもんね。ほめてる時のカオリンと目が合わないのは不思議だけどさ。いやー、それにしてもすごいな、わたし。まさかのあやかしデビューだもんなぁ。なんか体はいつもと全然変わらない気がするし、服もパジャマだけど、あやかしなんだよね……ん?


「え、待って、ツクモン! じゃあ今、わたしのお部屋に、わたしはいないってこと? お母さんが心配しちゃうよ!」


 このスマホの表示を信じるなら、もうすぐ夜の十一時。お母さんが観てるドラマが終わったら様子見に来ちゃうよ。


「ツクモンゆーのは、ウチの名前か? 適当すぎんか? まあなんでもよいがな。それに心配せずとも、おぬしの体はあの部屋でちゃんと寝ておる。魂だけがこっちの世界に来とるんじゃよ」


 おっけー。わかんないけど、怒られないなら問題なし!


「うむ。おぬしの状況を受け入れるスピードはもはや困惑こんわくを超えて爽快そうかいじゃわい。さすが想像拡張領域SSじゃな」


「ツクモン……ずっと言おうと思ってたんだけど、はやめて! ミチカ、ミッちゃん、もしくはキタミン! すたんだーど?」


「……英語は苦手なんじゃったな。あんだすたんどなのじゃよ、ミッちゃん」


 えへへ。ツクモンはミッちゃん派か。カオリンと一緒だね。よーし、抱っこしちゃお。このフェルトのふんわりした肌ざわりがたまらないんだよね。それにひんやりしてて暑い夜にもピッタリって……。


「ツクモン冷たっ! なんで? きもちいいけど!」


「あやかしじゃからな」


 ほー。あやかしって冷たいんだ。新発見だよ。あーそれにしても気持ちいい。すりすりしちゃお。


「ミッちゃんよ、ムズムズするのじゃ。それに今夜はもう一時間もないし、チュートリアルだけでもやっておかんか?」


 ちゅーとりある? あーあれね。たしかにおいしいけど、わたしは卵焼きの方が好きかなー。


『チュートリアル――初心者向けの解説みたいなものです。中トロは関係ありません』


 うわっ! またこのスマホ勝手に喋ったよ。


「そういうことじゃ。あやかし大戦のルール説明みたいなもんじゃ」

『あやかし大戦ではありません、あやかしバトル夜十時、です』

「なんじゃ? ただのナビのくせに、細かいのう」

『ただのナビであると同時に、本チームの管理を行なっています。過度な敵対行動はルールに抵触することをお忘れなきよう』


 あらら? ツクモンとシリリンは仲が悪いのかしら。わたしが仲を取り持ってあげなきゃね。


「ツクモンもシリリンも仲良くしなきゃだめだよ。はい、もうみんなまるっとお友達!」

「なっはっはー! ウチが悪かったのじゃ。しかし、ナビにまで名前をつけるとは、さすがミッちゃんじゃな」

『ワタシ……いえ、本機はただのナビゲーターであり、個体名は不要です。そんなことよりチュートリアルを開始します』


 およよ? シリリンはお気に召さなかったかな。もしかしてググリンとかの方が良かったかな? でもこのスマホはお父さんのお古だから、どっちかっていうとシリリンなんだよなぁ。


『……チュートリアルを開始します。いいですか?』

「あ、はい。お願いします」


 シリリンは先生みたいだな。シリリン先生って呼ぼうかな。真ん中をとってリリ先生とかもかわいいかも!


『ん、んん……それではお二人にはこれより、この学校に巣食うあやかし、十三階段を討伐してきてもらいます。制限時間は二日、つまり明日の夜十二時までとします。今回はチュートリアルですのでペナルティはありませんが、討伐に失敗した場合、呪いがかかることもありますのでご注意ください。それでは良きバトルを』


 ……へ?

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