「灯餌」

低迷アクション

第1話

“Nさん”は、山間の村出身、そこでは、お盆に、夏祭りを二度行う。1度目の祭には、参加していたが、2度目は行った事がない。ただ、両親も含め、夜に外出しない日が、お盆の時に必ず1日ある。


普段、会合と称して、毎夜、酒を飲みに外出する父が、家にいる日…


これは、毎年、同じ日付の気がした。


高校生になった夏…村の友人達と協力し、彼等の親が会合に出ない日を見張る事に

決めた。


(村に一軒しかない呑み屋で酒を飲むのが、大人達の、唯一の娯楽だった)


勿論、目的は2度目の祭に参加すること…


やがて、お盆の終わり頃、待ちに待った機会が訪れる。


全体メーリングによれば、メンバー4人とも両親が早くに布団に入ったとの事であり、これは、Nの家でも同様だった。


足に布を巻き、音を立てずに、ドアを出る。夜の道を、歩く者がいないのは、普段からだが、秘密の祭に参加出来るとあれば、景色も違って見えた。


集合場所に着くと、友人達が、興奮を押し殺した声で、囁き合いながら、

山の方を指差す。


「N、あれ、明かり、明かり!」


山の中腹辺り、確か廃寺のある場所にポツンと小さな光が灯っている。


「会場はあそこだな?よし、行こう」


威勢よく声を上げた一人が先頭に立ち、皆が後ろに続いて、山へ続く道を進む。


一体、どんな祭の内容なのか?聞こえるのは、夜風と虫の…鳴き声…がしない?


山は、かなりの大きさに見える所まで近づいている。ここから寺までは、5分とかからない。すぐの距離…すぐなのに…人の声も、祭囃しも聴こえない。ただ、ボウッと山の一点に灯った光が見えているだけだ。


そう思えば、自分達が子供の頃から、1度目の祭以外、夜に祭の音が響く事などなかった。あれは、あの灯は本当に祭をやっている所なのか?


疑問が頭を占めていく中、前を行く仲間の


「ヒィッ」


と言う呻きで我に返る。前方を見れば、寺に見えた灯がいくつも、Nさん達の前に現れていた。


それは突然、目の前で灯ったようだったと言う…


「あの…」


先頭の友人が、努めて明るく声をかけた。すると、灯の一つが、彼へ滑るように近づく。


Nさんは肩越しに見た。


「般若のお面…被ってるんじゃなくて、顔が般若の顔、角?…暗かったから、そこまでは…灯についても、提灯を持ってる訳じゃなくて、何か、顔が光っているって言うか、ホント…あの、黄色く血走った目…今でも忘れない」


全員が悲鳴を上げ、元来た道を走り始めた。灯の群れは、流れるように、Nさん達の背後にピッタリとついてくる。


「マジで怖かった。でも、一番怖いのは、近くにある家どれもが、明かりをつけない事…何の騒音もない村だ。人が叫べば、大騒ぎになってもいい筈なのに…


まるで、関わりたくないように、ヒッソリとして…“無視”を決め込んでた」


彼等の逃走は、走る1人が自分ちの畑にある作業小屋を指さした事で終わる。


急いで中に駆け込み、鍵をかけると、全員が怯えた目で、お互いを見つめ合う。


「アレはどうした?ついてきてるか?(窓を視ながら)」


「わっかんねぇ…くそっ、何だアレは?」


「オイ…」


「?」


「〇〇(友人の名前)がいねぇぞ?」


全員が4人目を、目で捜した瞬間…


「ぎゃあああああー」


甲高い絶叫が響き、すぐに何も聞こえなくなった。彼等は朝まで小屋に隠れ、明るくなった事を充分に確認してから、家に戻る。両親も村人も、彼等の外出と祭について、何も言わなかった。


友人は行方不明のままとなり、彼の両親は村からいなくなる。


Nさんも高校を卒業後、すぐに上京し、現在に至るまで、村へは戻っておらず、家庭を持った今でも、戻る気持ちはないと言う。


最後に、村を出る日の朝…Nさんは、両親に“2度目の祭”について、尋ねた。


(話の途中でNさん達が外に出ていた事を、彼等は知っていた、知った上で無視を決め込んだ事が察せられたと言う)


自分達を追いかけた、あの灯は何なのか?と言う問いに対し、父親は何も言わず、母親は部屋を出ていってしまう。全てを諦めた彼は、家の戸を開ける。その背中に父の声が、静かに響いた。


「…あの祭は“狩り”なんだよ」…(終)

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「灯餌」 低迷アクション @0516001a

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