家族を失った少女が出会う力と選択の物語

<プロローグ〜第1話「私だけが残された……。」を読んでのレビューです>

物語は、日常と非日常が交錯する静かな導入から始まります。家族を失った少女の内面描写は、時間の流れや感覚を丁寧に拾い上げ、読者に淡い喪失感を伝えます。その日常の延長線上に、突如として現れる黒衣の青年が、世界の色を変える契機となる。文体は淡々とした語りでありながら、心理描写の緩急や場面の光と影を繊細に描き、感情の機微を確実に伝えている点が印象的です。

「……失ったものを取り戻したくはないか?」

家族を失い絶望の淵に立つ少女に向けられるこの言葉は、直接的な慰めや励ましではなく、選択の余白を与え、静かに物語の推進力となっている。その抑制の効いた問いかけに、少女の内面が揺れ、読者もまた世界の広がりを感じることができるのです。

日常の細部描写と非日常の緊張感の対比、登場人物の心理の描き分け、そして新しい世界の予感を巧みに織り込む手法に、物語全体の奥行きと温かみを感じました。