八咫烏〜私は、存在を失っても守りたい〜

秀零

プロローグ

世界は、残酷だ……。

世間は、理不尽だ……。

誰かの大切のものを、意図も容易く奪っていく。

「こんな、世界に一体何の意味があるの?」

薄暗い廃ビルの屋上に立つ。

私、神楽天音は今から空へ飛ぶ──。

下には、叩きつけられればひとたまりも無いコンクリートが見える。

「さようなら、クソッタレな世界」

空へ足を踏み出す──。

身体は重力に従って真っ逆さまに落ちていく──。

ドスンと、身体に衝撃が走る。

けれど痛みはない、そもそも、本当に叩きつけられたのであれば衝撃など感じるはずもない……。

固く閉じていた目を開けると、黒い髪に整った顔立ちは俗に言うイケメンと言われそうな見知らぬ男が視界いっぱいに映った。

「ふー、間一髪……」

よく見ると、私は男に抱きかかえられていた。

「……誰?……」

「いや!それ俺のセリフな!!」

男はそっと私を降ろし、下から上へ、上から下へと舐めるのように眺めてくる。

「……何ですか?……」

私の警戒心が一気に高まる。

「何で、死のうとした?」

「え?何で……」

目の前に居る男は決して知り合いではないし、知り合いにだって言っていない──。

「分かるさ、何たって俺は……カラスだからな……」

ニカッと、笑う男は、私の髪を雑に撫でながら、優しい声で……。

「話してみろよ」

妙に安心する声に、私は自然と口を開いていた。

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