第1話 日常

地球温暖化によって、最近の夏は猛暑が続き、各地で最高気温を毎日のように更新してると言うニュースをエアコンが効いた涼しい屋内で見ながらため息をつく。

「はぁー最近は何処にいても暑すぎるー!」

タンクトップにショートパンツ姿の私に、母・神楽環はため息をつく。

「天音、16歳になったんだから、もう少しちゃんとした格好でいなさい」

「はーい」

ママのお小言など、聞き飽きる位に聞いてきた私は、高校生になる頃には見事なまでのスルースキル手に入れた。

「母さん、天音に女らしい格好なんて無理でしょww」

アイスを片手にタンクトップ、ショートパンツ姿の兄・神楽新が笑いながら私の頭の上に肘を置く。

「兄さんだって、私とほぼ同じ格好じゃん」

「男はいいんだよww」

「でたよ、男はいいんだよ発言、そんなんじゃ彼女なんて夢のまた夢だねww」

「なんだとー!!」

兄さんは、後ろから私のこめかみを拳でグリグリと、押してきた。

「いたい、痛い!いだいー!!」

「こら!兄妹ゲンカはやめなさい!」

そこに、ママが仲裁に入る──。

「何だか、賑やかだな!」

「ただいま!!」

麦わら帽子を被り、首元に汗が滴りながらリビングに来たのは、暑い中、小学生の妹・神楽優里を公園に連れて行っていた父・神楽右京の2人が公園から帰った来た。

「おかえりなさい、あなた、優里」

「ただいま、環」

「ただいま、ママ!」

優里は、兄さんが持っているアイスに目をキラキラさせながら、兄さんの足に絡みつく。

「お兄ちゃん!アイス!アイス頂戴!」

「分かった、分かったから!ちょっと待て!」

兄さんは優里を振りほどき、冷凍庫からアイスを2つ持ってきて、1つは優里に上げ……。

「ほら……」

もう1つのアイスを私にくれた。

「ありがとう、兄さん」

早速袋を開け、鮮やかな青色に輝くアイスを口に含むと心地良い冷たさと、甘すぎないソーダの味が口いっぱいに広がる──。

「天音、スマホ鳴ってるわよ!」

「ふぁーーい!」

テーブに置いてあった、スマホが画面が光りバイブで少しづつ動いている。

口に咥えていたアイスを手に持ちながら、画面に表示されている『華』というが文字に笑顔で電話に出る。

「はーい、どうしたー?」

『天音!おはようー!夏休みの宿題終わったー?』

電話口から聞こえてる元気な声に自然と笑みがこぼれる。

「宿題は全部終わってるよ、そっちはどうですか?私の親友の斎藤華さん?」

『全く終わってませんよ、宿題を見せてくださいな親友の神楽天音さん?』

お互い冗談を言い合い、笑い合う──。

「分かった!1時間後にいつものカフェに集合ね!」

『ありがとうー!!飲み物は私の奢りねー!』

「了解!!」

電話を終えると聞こえていたのか、ママは笑顔で「気おつけてね」と言ってくれた。

服を着替え、日焼け止めを塗りナチュラルメイクをして肩甲骨くらいまである髪を1つにまとめ、お気に入りのサンダルを履く。

「行ってきまーす!!」

「行ってらっしゃいー!!」

リビングから家族の声が聞こえ、満足気に家を出る。

家を出て数分歩くだけで、身体中から汗が噴き出し、上から太陽が煌々と私を照らし、太陽の照り返しでアスファルトは暑くまるでフライパンの上を歩いてるような感覚になる。

「よっ!天音!」

後ろから頭を小突かれ、聞こえた声に聞き覚えがあった私は冷ややかな目で振り返る。

「……あんたは相変わらず元気だね、魁人」

後ろに居たのは私の幼馴染の、神宮寺魁人だった。

魁人は自転車に跨り、イタズラ少年のような笑顔を向けていた。

「これから、どっかに行くのか?」

「華と夏休みの宿題をやりにいつものカフェに行くところ」

「ふーん…………」

魁人は数秒考え込んだかと思ったら、すぐにとびっきりの笑顔で私に迫ってきた──。

「それ、俺も行っていい?!」

「……別にいいけど……」

別に断る理由もなく、私は魁人の提案を受入れた。

「よっしゃ!!宿題持って行くから先に行っててくれ!!」

「はいはい……」

魁人は自転車のペダルに体重をかけ、凄まじいスピードで家へ戻って行った……。

私はそんな魁人に苦笑いしながら、再びカフェへ向けて歩き出した。

「天音ーー!!待ってたよー!!」

「は、華!あつい!暑いから離れて!!」

カフェに着くと、先に待っていた華が私を見つけた途端全速力で抱きついてきた。

人同士がくっついた事で、感じていた暑さが何倍にも感じ、急いで華を引き離した……。

「とりあえず、中に入ろう……」

「オッケー!!」

一刻も早くクーラーの効いた屋内に行きたいという一心で華の手を引き、カフェの中に入る。

「あ゛あ゛生き返るー!」

店内に入り席についた瞬間、ちょうどクーラーの風がダイレクトに当たる場所らしく、ひんやりとした風が私を包み込み、あまりの気持ちよさに思わず声を上げてしまった。

「あ、そうだ!後から魁人も来るってさ」

「お!オッケーオッケー!!いやークラス1の美少女とクラス1のイケメンと勉強出来るなんて約得、約得ー!」

「からかわないでよー!ほら先に、飲みもの注文しよ!」

「照れちゃってー!まあその謙虚さが天音の良いところだけどねー私はクリームソーダ!」

「別に謙虚じゃないもん、あ、すみません

ー!」

華の話を否定しつつ、私はカウンター居る店員さんに向かって手を上げる。

「ご注文はお決まりですか?」

すぐに店員さんはメモを手に私達の席まで来て、笑顔で接客をはじめた。

「クリームソーダ1つ、アイスティー1つ、アイスコーヒー1つ以上で大丈夫です」

「かしこまりました、少々お待ち下さい」

笑顔で一礼し、戻って行く店員さんを見送り私達は再び雑談に花を咲かせた。

「魁人くんの飲み物勝手に頼んでよかったの?」

「うん、魁人はここではコーヒーしか飲まないし……そろそろ来ると思うから」

「さっすが、幼馴染……付き合っちゃえばいいのに」

「な、何言ってるの?!魁人はただの幼馴染!!それ以外ないから!」

華の突然の物言いに、先に貰っていたお冷を溢しそうになるのをなんとか阻止し、勢いよく否定する。

「天音はそう思ってても、魁人くん自身は違うかもよ?人の気持ちなんて分からないし」

「そんな事ないでしょ……」

華の珍しい正論に、たじたじになってしまった……。

「待たせたな!」

タイミングよく宿題を抱えた魁人が到着した。

「……大丈夫、魁人のアイスコーヒー頼んでおいたよ」

「お!サンキュー!」

爽やかな笑顔で私の隣に座る魁人に、何とか平常心を保とうと試みる。

「お待たせしました、クリームソーダ、アイスティー、アイスコーヒーでございます……ごゆっくりどうぞ」

またしても、タイミングよく注文していたものが運ばれてきた。

「よし、宿題早く終わらせよう!」

「だなー」

「はーい!」

2人はいそいそと宿題を広げ始めたが、2人のノートの白さに私は驚愕した……。

まだ、新学期までには時間があると言っても、ほぼ何も手を付けていない2人の宿題では残りの日数を全て宿題に費やさなければ、間に合わない……。

「……やるよ!とにかくやる!」

心を鬼にして、私は夕方になるまで2人に宿題を教え続けた──。

何とか半分まで宿題が終わり、地獄の宿題攻めから解放された2人は盛大なため息をついた。

「お、おわった……」

「はぁーーもう宿題やりたくない……」

「よく、頑張りました!でもまだ半分あるよ」

「い、いや、今日はもう……」

「天音も疲れただろうし!」

まだ続けると思ったのか、2人は首を勢いよく横に振った。

「今日はここまで、後はコツコツやれば新学期には間に合うよ」

「ありがとう!天音ー!」

「マジで、サンキュー天音!」

「どういたしまして!片付けて出ようか」

2人が宿題を片付けてる間に、私はお会計を済ませ3人で並んで歩きながら帰路についた──。

こんな楽しい日常が私はずっと続くと思っていた。

両親が居て、兄妹が居て、親友と遊んで、幼馴染とふざけあって、大人になっても続くと思っていた。

喧嘩もするけど楽しく平穏な日々に私は満足していた──。

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