第21話 救出

暗い空間に1人、私は歩いていた。

見渡しても一寸の光はなく、音も聞こえない。

私は彷徨い続けた……。

歩き続けていると、突然眩しい光が私を照らす。

光の向こうに人影が見えた、人影は私に向かって手招きしているように見えた。

私はただ漠然と、手招きしている人の元に行かなきゃと……1分、1秒でも早く行かなきゃと思い、全速力で光に向かって走り出す──。

手が届いた瞬間私は光に包まれた。

「……ここは?」

再び目を覚ますと見知った天井があった。

「目が覚めたか?」

声がした方を見ると、椅子に座って本を読んでる紫苑さんが居た。

「紫苑さん……」

本を閉じ、紫苑さんは私を睨む。

「自分が何をしたか覚えてるか?」

「……はい……うっすらではありますが記憶はあります」

「なら、何があったか自分の口から説明しろ」

私は改変先で何があり、何が起こったのかを覚えてる限り説明した。

「……事情は分かった……」

私の説明に納得してくれたが、紫苑さんは複雑な表情を浮かべる……。

「天音、目覚めたばかりで悪いが……八咫烏のメンバー、八雲、千歳の救出に向かってくれるか?」

「救出ですか?」

状況が飲み込めない私は首を傾げる。

「あぁ、実は2人は改変に行ってんだが……さっき烏が飛んで来てな、天音達が戦った大型天使が現れ、帰還位置まで移動が出来ないらしい……正直目覚めたばかりの天音を行かせたくわない、だが唯一、大型天使を倒したのは天音だけだ……」

「分かりました、行きます」

私はベッドから起き上がる。

「傷は凛子さんに治してもらったが……無理する事はない」

紫苑さんが心配そうに私を見つめる……。

「大丈夫です!痛みもありませんし行けます!」

紫苑さんの心配をよそに、私は笑顔を見せる。

「……分かった、くれぐれも無茶はするなよ!水輝と煌が一緒に行く……準備が出来たら時の間だ」

「はい!」

私が折れないと悟った紫苑さんは、釘を刺し部屋を出ていった──。

準備を終え、時の間に行くとすでに水輝さんと煌くんが到着していた。

「お待たせしました!」

「お姉ちゃん!大丈夫?!ケガしたって聞いたよ!!」

2人に駆け寄ると、煌くんがすぐさま私の所に来てケガの心配をしてくれた。

「大丈夫だよ、凛子さんに治してもらったから」

「無理しないでね!お姉ちゃんは僕が守るから!!」

腰に手を当て胸を張る煌くんがあまりに可愛く、頭を撫でる。

「ありがとう、煌くん」

「天音さん、事情は聞いています……もし異能が暴走する事があればすぐに前線から引いてください」

水輝さんは強い口調で私に言い放つが、言葉の端々に優しさを感じた。

「よし!揃ったな」

そこに紫苑さんが来て、今回の指示を受ける。

「今回は改変が目的じゃない、八雲と千歳の救出が最優先だ大型天使とは無理に戦う事もない……よし、バカ2人を頼むぞ!」

「はい!」

「分かりました」

「はーい!」

私達は、八雲さんと千歳さんが居る過去へと向った──。

2人の居る時空に到着した私達はすぐに、2人の捜索を開始した。

「居ませんね……烏を飛ばしても返事がありません」

「会うのは、天使ばっかりだよー!」

「1度、別れて探しませんか?」

私の提案に水輝さんが考え込む。

「たしかに、効率的ではありますが……もし大型天使と出くわしたら……」

「そうですね……私が戦った時紫苑さんからの烏が届きませんでした」

「おそらく、大型天使は俺達の烏を妨害する能力があるのかもしれませんね」

大型天使との戦いを1つ1つ思い出し、確実な情報を2人に共有する。

「それじゃ!3人で一緒に探そうー!」

『天音、大丈夫か?』

紫苑さんの心配そうな声に元気な声で応える。

「大丈夫です、無理に戦おうとはしませんから」

『分かってるな!2人を改めて頼むぞ』

「はい!」

異能を駆使し天使と戦いながら、2人を探していると……。

「あれ?変な所に来ちゃった」

気づいたら路地に迷い込み、水輝さん達とはぐれてしまった……。

「きゃあああ!!!」

「何?!?!」

突然悲鳴が聞こえ、聞こえた方に向かうと、傷だらけの黒髪に赤いメッシュが入った男の人が煌くん位の女の子を庇うように大型天使と戦っていた

「あの人達が……」

私はすぐに2人が、探している2人だと分かり、援護に向かう。

「大丈夫ですか?!」

大型天使の隙間を縫い2人の元に辿り着き、すぐに2人を連れ移動を始める。

「あんたは?」

「話はあとです今は少しでも離れましょう!」

少し離れた家に転がり込み、2人をそっと寝かせる。

「私は八咫烏の新人の神楽天音です、八雲さんと千歳さんですね?2人を助けに来ました」

「そうか俺は八雲……そっちは千歳……手間をかけたな」

「大丈夫です、千歳さんは大丈夫なんですか?」

私が駆けつけた時には千歳さんは意識が無かった……。

「さっきの天使の攻撃で気を失っただけだ」

「そうですか……」

そう聞いて私は安堵した。

「紫苑さん、聞こえますか?」

『あ、あ……かろうじてな……』

途切れ途切れではあるが、紫苑さんの声が聞こえほっと息をつく。

「八雲さんと千歳さんを見つけました、水輝さん達に烏を飛ばしてください」

『わか……た……き、か……』

「紫苑さん?紫苑さん!」

完全に烏が届かなくなった……外を見るとすぐ近くまで大型天使が迫っていた──。

「八雲さん、もうすぐ水輝さんと煌くんが来ます……それまでの辛抱です」

「んっ……ここは?」

隣に居た千歳さんが意識を取り戻した。

「大丈夫ですか?千歳さん」

「だあれ?」

千歳さんはキョトンとした顔で私を見る。

「八咫烏の新人の神楽天音です、千歳さん達を助けに来ました」

私の言葉で安堵したのか千歳さんはニコリと笑った。

「ありがとう」

「天音さん!お待たせしました!」

「お姉ちゃん!大丈夫?!」

タイミングよく水輝さん達が合流してくれた。

「頭領から帰還位置は聞きました、此処の近くです行きましょう!」

水輝さんは八雲さんを、煌くんはドールを使い千歳さんを運ぶ。

私は、天使の掃討を担当する。

刀を握り、皆を先導する──。

帰還位置まであと少しの所で、予想外の事が起きた……。

大型天使が帰還位置の手前で立ち止まっている。

「どうしましょう……このままでは」

「……私が、引きつけます……その間に水輝さんと煌くんは八雲さん達を帰還させてください」

「でも、それじゃお姉ちゃんは?!」

「大丈夫!」

「煌、行きましょう……天音さん倒そうとしなくていいです、俺達が帰還したらすぐに帰還してください」

「……分かりました」

刀を強く握り、一直線に大型天使に向かって行く──。

「こっちよ!!」

言葉通り大型天使の気を引き、皆が帰還する隙を作る……。

「……炎付与!」

隙を見て攻撃するが、前回同様ほとんど効いていない……。

大型天使の攻撃を避けながら、皆の様子を確認する。

「天音さん!!!」

水輝さんの声が聞こえ、背を向け走り出す。

後ろから迫ってくる音が聞こえるが、決して振り返らず前だけを見て走る──。

水輝さんが懸命に手を伸ばす、私は飛び込むように水輝さんの手を掴む。

光に包まれ目を開けると、時の間に居た。

「やりましたね、救出成功です」

水輝さんの言葉に全身の力が抜け、座り込む……。

「よくやったな!天音、水輝!」

紫苑さんが満面の笑みで、私達を抱きしめる。

「ありがとう、大事な仲間を救ってくれて」

「当然です」

「助けられて良かったです」

始めて実感した……今の私なら大切なものを守れると、それがひどく嬉しかった……。

そう思った瞬間心の奥底に小さな炎が灯った気がした──。

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