第20話 帰還
『……い、お……おい!聞こえるか?!』
頭の中に紫苑さんの声が響く。
『おい!天音!!聞こえるか?!』
紫苑さんの声を無視し、目の前に現れた無数の天使を見据える──。
「紫苑ちゃん……天音ちゃんの様子がおかしいの……」
凛子さんが紫苑さんと話しているのが聞こえる。
『天音聞こえるか?!帰還命令だ!』
「……………」
聞こえてくる紫苑さんの声を、完全にシャットアウトし刀を構える──。
「……煉獄付与……」
後ろから聞こえる静止を気にせず、私は天使達の真ん中に突っ込み、切り伏せる──。
断末魔も、返り血も気にせず、ただ敵を切り伏せる。
1体、1体、終わらせるたび、暗くて黒い海に沈んでいく……怒りと憎しみだけが込み上げる。
刀を振るい、敵を薙ぎ払う事に次第に高揚感を覚える。
「……あははっ……」
楽しさのあまり、声を出して笑ってしまう。
……突然、身体が動かなくなる……。
下を見ると、凛子さんと一鉄さんが私を前後から抑え込んでいた。
「譲ちゃん!もういい!!」
「天音ちゃん!帰りましょう!!!」
「……邪魔、しないで……」
私は2人の拘束を振りほどき、天使達へ走り出す。
私に降り注ぐ攻撃も避けず、攻撃を続ける。
いくら傷が出来ても痛みを感じず、むしろ力がどんどんと湧いてくる──。
「重力付与、筋力付与」
更に付与を重ね、無数に湧いてくる天使を倒し続ける……。
『天音ー!!!戻って来い!!!』
声が聞こえる……暗い海の底にいる私に温かい光が差し込む──。
その光を追うように、私は腕を伸ばす……。
温かい光は大きな手へと変わり、私を引っ張り上げてくれた──。
無我夢中で刀を振り続け、最後の1体の天使に振り下ろす瞬間、腕が動かない……。
見ると刀を持つ右手が痙攣して、動かない……。
左手に持ち替えようとすると、左手も動かなくなった。
「何で?貴女だって天使が憎いでしょ?!家族を奪われて、2度も父親の死を見て!憎くて憎くてたまらないくせに!!」
「天音ちゃん……?」
「邪魔しないでよ!引っ込んでてよ!!」
刀を振ろうとする右手を左手が抑える──。
ついには、左手が刀を奪い……自分の右手を刺した……。
「ぐっ!……返して、私の身体を……」
『何でよ!貴女だって……!まぁいいわ、これからいくらだってチャンスはあるから……』
身体の中で燃え上がっていた黒い炎は、小さくなって消えたのを感じた……。
「凛子さん……一鉄さんの……」
「譲ちゃん、正気に戻ったのか?!」
「はい……すみま、せん……」
さっきまで感じなかった、痛みをや疲労が一気に襲ってきて私は、意識を失った……。
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