第11話 決断
「気づいてると思うが、俺は八咫烏を率いてる頭領だ……仲間じゃないあんたには説明の為に色々と情報は開示したがこれ以上の情報をべらべらと喋るわけにいかない──」
鋭い声と威圧的な口調に私の身体は硬直して指1本も動かせない……。
出かかる言葉を飲み込み、また口を開け、再び言葉を飲み込み、必死に言葉を探す。
「……で、でも紫苑さんですよね?煌くん達に私の名前を教えたのは……煌くんが言ってました、私は八咫烏に入ると思うから教えられたって……」
頭をフル回転させて、何とか会話を続ける……。
「俺は、昨日ろくに紹介もしなかったから紹介しただけだ……八咫烏に入るってのは煌が勝手に言った事だろう、煌は何だか知らないがあんたを一目見て気に入ったらしく、デタラメを言ったんだろう……それについてはあんたを混乱させた俺の落ち度だ……すまなかった」
頭を下げる紫苑さんを、私は慌てて静止する。
「顔を上げてください!異能には確かに驚きはしましたが……怪我もありませんし大丈夫です!」
「そうか、ありがとう」
紫苑さんの優しい笑顔に、私は顔が熱く
なる──。
「話は変わるが、俺はあんたに聞きたい事がある……あんたは一体何を悩んでる?」
「……え?」
突然、話が方向転換して唐突な質問に私は呆気にとられた。
「俺は、確かに今すぐ答えなくていいって言っ
た……今のあんたは答えが決まっているのにその答えを口出すのを躊躇っているように見える」
「……私は……私の夢はまた、家族と一緒に暮らす事です……でも、八咫烏に入ればその夢は叶わな……それは八咫烏に入らなかったとしても同じって事は分かってます、私の夢は叶う事は無いって事も頭では分かってるんです、どうしたらいいのか、分からない……」
助けたい気持ちはある、けれど八咫烏に入れば家族とは一緒に居られない……。
でも、それは八咫烏に入らなくても同じ、答えが見つからず頭の中で堂々巡りが続いていた。
「……結局、あんたは自分が可愛いだな……」
紫苑さんの悪態の言葉にわずかに怒りが込み上げる。
「そんな事ないです!!」
「そんな事あるだろ?俺があんたの立場なら、迷わず入る……自分の存在1つで家族が救えるんだ、安いもんだろ……結局あんたは、自分を犠牲にする覚悟が無いって事だ」
その瞬間プツリと、何かが切れた気がして、抑えていた、感情が爆発する──。
「うるさい!!家族と一緒に居たいって思うのがそんなにいけないの?!?!私の願いが叶わないのも分かっている!!!でも捨てきれない!そんな簡単に捨てられない!!……私達が何をしたのよ!?ただ平穏に暮らしてただけなのに!!!」
自分でも何を言ってるのかよく分からない、でも1度溢れだした感情も口から出た言葉はもう止まらない……。
「……憎いよ!世界も!神様も!!何もかもが!!私達が何したの?!」
今まで誰にも吐き出せず、溜め込んできた思いが一斉に私の言葉となって外へ出ていく。
悲しいのか、悔しいのか、色んな感情がグチャグチャにな混ざり合って奥底から込み上げてくる──。
その瞬間、暖かいものに包まれる。
「……悪かった……言い過ぎた、あんたを追い込みたかった訳じゃない」
紫苑さんに抱きしめられてる──そう、認識する。
暖かい紫苑さんの体温、少しだけ硬い胸板が妙に私を安心させる。
「……すみません」
「怒りをぶつける相手が居ないのは辛いよな、悪かった……正直期待してたんだ、家族を失ったあんたなら即答で入ってくれるって……八咫烏は万年人手不足だからな……」
私を見下ろす、紫苑さんは苦しそうに笑った。
その笑顔を見て私は「こんな苦しそうな笑顔は見たくない」「力になりたい」「護りたい」という思いが私の迷いをかき消した──。
落ち着きを取り戻した私は、見ないふりをしてた弱さと自身のエゴを隠すのではなく、受け入れる。自己中でも、強欲でもいいから……家族を取り戻したいという気持ちと同時に紫苑さんの力になりたい私は覚悟を決める──。
「……紫苑さん、私……八咫烏に入ります」
「俺に、言われたからって今すぐ、答えなくていいんだ!」
「違います、紫苑さんに言われたからじゃないです……私は認めたくなかったんです、私の奥にある気持ちを……弱さを、自分のエゴを、家族と一緒に居たいって気持ちは変わりません、また一緒に暮らしたいって願いも捨てきれません!それでも!助けたいんです……世界が、神様が返してくれないなら私自身が家族を取り戻します!……そして同じくらい紫苑さんの力になりたいんです!」
心の中にある自分のエゴという感情を隠すのではなく、それを認めて自己中でも自分勝手でも世界に逆らっても、神様に喧嘩を売っても……私は家族を取り戻す。
自分自身のエゴの為に──。
「……本当にいいんだな?後悔はないか?今ならまだ引き返せる……」
「はい!後悔は沢山ありますが……大丈夫です私は存在を失っても、取り戻し、守ります!!それから私の願いを叶えます!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます