第10話 情報

「お待たせしました」

着替えが終わり、廊下に出ると水輝さんがスマホをいじりながら待っていた。

「いえ、言うほど待ってませんよ、それでは行きましょう」

スマホをポットに仕舞い、歩き出した水輝さんに置いていかれないように、小走りで後ろを着いて行く。

特段、会話もなく……気まずい空気が私達を包む。

「……あ、あの……」

気まずい空気をなんとかしようと、意を決して私は口を開いた──。

「どうしました?」

水輝さんは、立ち止まり振り返る。

「八咫烏って何人くらい居るんですか?」

「全員で10人くらいですよ」

予想以上に少ない人数に、思わず声を上げる。

「10人ですか?!もっと多いのかと思ってました……」

「八咫烏は誰でもなれるわけではありません、適性がなければなる事は出来ません」

思い返せば、紫苑さんも「適性が……」と言っていた気がする……。

「私には、適性があるって事ですか?」

「それを、判断するのは俺じゃありません」

「誰が判断するんですか?」

「八咫烏・頭領紫苑さんです」

「何だ?俺の悪口か?」

突然、横から現れた紫苑さんに驚き、変な声が出てしまった。

「ひゃっ!び、びっくりさせないでください!!」

「悪い、悪い……」

悪いと思ってなさそうな謝罪したと思ったら、紫苑さんはじっと、私の顔を見つめてくる。

「……昨日よりはマシだな……」

「え?」

「あんたの顔だよ……昨日は、今にも死にますって顔してたけど、少しは人間らしい顔になったな」

頭を雑に撫でられ、記憶の中の兄さんと重なり、溢れそうになる涙をグッと、堪える……。

「頭領、天音さんは朝食がまだなので、そろそろ……」

「そうだったのか!いっぱい食べろよ!」

また私の頭を雑に撫で、背を向ける。

「紫苑さん、朝食を食べ終わったら、教えてほしい事があるんです」

「分かった、食べ終わったら水輝に俺の部屋まで案内してもらえ!水輝頼むぞ!」

「分かりました」

紫苑さんと別れ、食堂に向け水輝さんと歩き出す。

「お姉ちゃん!待ってたよー!!」

食堂に着くと、さっきまで落ち込んでたのが嘘のように煌くんが抱きついてきた。

「早く!僕お腹空いちゃった!」

「煌!もう少し天音さんの事を考えてくさい!」

煌くんは私の手を引っ張り、お気に入りだと言う席に座る。

「お姉ちゃんは僕の隣ね!」

「う、うん……水輝さん隣どうぞ」

ほぼ、強制で煌くんの隣に座らせられ、後ろから来た水輝さんに空いている私の隣の席を勧める。

「ありがとうございます、すみません食堂がなにせ狭いもので……」

確かに、廊下や私が泊まった部屋に比べれば、食堂だけが異様に狭い。

「頭領が、食事は団欒のようにしたいと駄々をこね……」

「なるほど……」

「お姉ちゃん!ご飯来たよ!!」

『オマタセシマシタ』

私の目の前に、トレーに食事を乗せたロボットがやって来て食事をテーブルに置くと、キッチンの方へ戻って行った──。

「今のは?」

「あれは、配膳ロボットですメンバーの中にメカ好きが居まして……自作したらしく、注意したのに、勝手に……!」

ブツブツ独り言を呟いてる、水輝さんを尻目に運ばれてきた食事に口を付けた……。

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさま!!お姉ちゃん!アジトを探検しよう!」

食べ終えるとすぐに煌くんが、私の手を引っ張る。

「煌、天音さんはこれから、頭領とのお話があるんです」

「そっかー残念……」

またしても、明らかに肩を落とす煌くんが、心苦しくなり、私は煌くんと目線を合わせる。

「お話が終わったら、一緒に探検しよう!」

「やった!約束だよ!!」

目をキラキラ輝かせる煌くんと、小指を絡ませる。

「天音さん、行きましょう」

「はい、また後でね煌くん」

煌くんと別れ、私は水輝さんに紫苑さんの部屋に案内してもらい緊張しながらもノックする。

「入っていいぞ」

中から紫苑さんの声が聞こえ、深呼吸をして中へ入る……。

「いっぱい食べたか?」

「はい、美味しかったです」

「それは、良かった……で?話って何だ?」

早くも本題に入る、紫苑さんは高そうな椅子に座り、私を品定めするように見つめながら私の言葉を待っている──。

「八咫烏について、教えてください」

「昨日も話した通りだけど?」

「もっと、色々な事を教えてください……例えば異能の事とか……」

私が、異能の単語を出すと紫苑さんの顔つきが変わる……。

「情報は、タダじゃないんだ……仲間じゃないあんたにこれ以上は教えられない」

はっきりとした拒絶に、紫苑さんの言葉が心に突き刺さる──。

私は、どこかで期待していたのかもしれない……紫苑さんなら頼めば教えてくれると……その自惚れを紫苑さんはきっと見抜いていたのだろう……。

「お願いします!知りたいんです!!」

何も差し出せるものがない私は、頭を下げ懇願するしかなかった……。

「……はぁーー」

大きなため息をつかれ、嫌われたかとビクビクしながら紫苑さんの反応を待つ。

「頭を上げろ」

聞いた事のない鋭い声に身体が硬直するが、これ以上怒らせたくないと、ゆっくりと顔を上げる……。

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