第9話 異能

夢を見た……。

パパもママも兄さんも優里も居て、皆が笑ってる夢──。

でも、その中に私の姿はなくて、遠くから皆を見てる夢……。

目を覚ますと、見知らぬ天井が広がっていた。

「……そうだ……桔梗さんと話して、ベッドに入ったらそのまま寝ちゃったんだ」

意識がはっきりすると、昨日までの出来事が本当だったんだと再認識する。

「おはよう!天音お姉ちゃん!」

突然、横から声が聞こえベッドから飛び起きると、私に添い寝する形で茶髪で小学生くらいの男の子がニコリと、笑っていた──。

「だ、だれ?!」

「お姉ちゃん、全然起きないんだもん!僕、ずっと待ってたんだよー!」

男の子は、悪びれる様子もなく、むしろ私のせいで待ったと言い出した……。

「えっと……君も八咫烏の人なの?」

確信はなかったが、男の子が纏う異様な感じは、紫苑さんや桔梗さんからも感じた感覚に似ていてた。

「そうだよ!僕は、煌!よろしくね天音お姉ちゃん!」

「なんで、私の名前……」

目に前に居る、煌と言う子とは初対面のはずなのに、私の名前を知っている。

「知ってるよ!僕だけじゃなくて此処に居る皆んなが知ってるよ!!紫苑ちゃんが教えてくれたんだ!お姉ちゃんはきっと、八咫烏に入るからって」

「紫苑さんが……でも、まだ入るって決めた訳じゃいから……」

「……何で?どうして?僕達と一緒に居ようよ!ねえ、一緒居よう……」

何か気に障ったのか、煌と言う子は突然声を荒げる──。

「こう……煌くん、落ち着いて……どうしたの?」

「違う!!煌くんなんて呼び方しないで!!」

まるで、癇癪を起こした子供のように暴れる煌くんに私は手をつけられずにいた……。

「!!!」

突然、煌くんの後ろから人の形をした、つぎはぎだらけの『何か』が現れた。

「こう、くん……後ろの……な、に?」

「あぁ、これ?これはね……僕のママだよ」

言葉を失った……。

後ろに居る『それ』が人間な訳がない……目は大きく見開き、身長だってぱっと見た感じ、数十メートルはある……背中からは糸で繋がっていて、言うならば『操り人形』そのもの……。

「あ……あ、い、いや!!」

あまりの恐怖に、私は煌くんを突き飛ばし出口へ走る──。

「なんで?!開かないの?!?!出して!!」

ドアノブを捻るが扉は開かず、押しても、引いても扉は開かない……。

「無駄だよ……ほら、捕まえた」

広いと言っても、部屋の中ではすぐに追いつかれてしまった。

異様な恐怖に、腰は抜け、身体はガタガタと震えが止まらない。

そんな事お構いなしに、煌くんは私の顔をじっと、見つめる。

「大丈夫、怖くないよ……僕が守るから、ずっと、ずっと、一緒に居ようね」

煌くんの言葉を聞くたび、頭の中に霞がかかり

思考がまとまらない……。

「煌くん、と、一緒に……」

「そう、僕と一緒に居よう」

『煌くんと一緒居る』何故かそうしようと思った、そうしなければいけないと思った……。

「何やってるんですか?貴方は!」

「痛いー!」

聞き覚えのない声と、煌くんの声で霞がかっていた頭の中が突然クリアになる。

「痛いよ!水輝……」

「痛いよ、じゃありません!遅いと思ってきてみれば……」

突然、現れた黒髪でメガネをかけ八咫烏の服をきちんと着こなし、礼儀正しく怒っていても口調は敬語で話す男の人は煌くんにを叱りつけている。

「全く……貴方は天音さんを朝食に呼んでくるように言われたんじゃないんですか?!」

「そうだよ……でも!天音お姉ちゃんが八咫烏に入らないなんて、言うから……」

煌くんは明らかに、落ち込んでおり見ている私が心苦しくなる……。

「はぁー、天音さんにだって選ぶ権利があります!それを貴方が勝手に決めてはいけません!!分かったら、先に食堂に行ってください」

「……はーい……」

煌くんは、肩を落としながら部屋を出ていった。

「あ、あの……」

「すみません、驚きましたよね?煌に任せた俺の失態です……」

メガネの人は、座り込んでいる私に、手を差し伸べて起こしてくれた。

「ありがとうございます」

「いえ、さっきは煌がすみませんでした」

「びっくりはしました……煌くんのあれはいったい……?」

「……あれは、異能です八咫烏に所属する者は全員異能を使う事が出来ます」

異能──。

漫画やアニメでは、時々出てくる超能力みたいなものとしか認識してなかったが、まさか実在するなんて……起きてから色々な事がありすぎて、正直ついていけない……。

「異能について等は、後で頭領に聞いてみて下さい、それとこれを……」

水輝さんが差し出したのは、八咫烏の服だった。

「いつまでも、制服のままでは息苦しいと思いまして、これしかありませんがよろしければ……」

「ありがとうございます」

確かに、変えの服も持っていないし、よく見たら制服のまま寝た事で所々シワになっているのに気づき、ありがたく水輝さんから服を受け取る。

「では、俺は外で待ってるので終わったら呼んでください」

そう言って、水輝さんは部屋から出ていった。

待たせてはいけないと思い、私は急いで袖を通した──。

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