第8話 覚悟

桔梗と言う人に連れられ、長い廊下を歩く。

特に会話もなく、2つの足音だけが廊下に響く──。

「さっきは、ごめんね……うちの頭領、説明下手でさ……」

「あ、い、いえ……」

突然、声をかけられ驚きのあまり、うまく声が出ず変な返事になってしまった……。

「でも、びっくりしたよー突然来たかと思えば頭領もいきなり説明し始めて……混乱したでしょ?」

「まぁ……それなりに……」

1ヶ月間、人と会話する事が極端に減った事で上手く言葉が続かない。

「ゆっくりでいいよ……何があったかはまだ知らないけど辛い事があったんでしょ?」

桔梗と言う人は、私に背を向けて話してはいるが、背中からは優しさが滲み出ていて、その優しさに少しだけ心に余裕が出来た──。

「ありがとうございます」

「大したことじゃないよ……さあ、着いたよ」

通された部屋は、シンプルではあるが私1人には充分すぎる広さだった。

「こんな部屋……いいんですか?」

「いいんだよ!誰も使ってないからね……ちょっとお話しない?」

桔梗と言う人は、ソファーに腰を下ろし、隣をポンポンと、叩き私に座るように目で訴えかけてくる。

「……失礼します……」

「そんな、緊張しないで!あたしの事は桔梗でいいから、ちょっとあんたと話したいだけ」

「神楽天音です、よろしくお願いします……」

「天音ちゃんね……天音ちゃんはどうやって頭領と知り合ったの?」

桔梗さんの言葉に、ドキリと心臓が脈打つ……。

世間は、自殺を決していい目では見ない……叱責を受けるか、精神科病棟に入院させられるかのどちらかだ……。

「……分かった!天音ちゃんも、自殺しようとした所を助けられたんでしょ?」

「え?!それじゃあ……き、桔梗さんも?」

「そうよ」

驚きだった……自分と同じ境遇の人にこんなに早く出会えるなんて……桔梗さんの言葉で私は一気に親近感を覚えた──。

「……あたしね、息子を亡くしたの……登校中事故にあって……夫とも離婚してた私には息子だけが生きがいで、生きる意味だった……息子を亡くした後は抜け殻のようで、息子の居ない世界で生きていたって意味がないって思って……死のうとしたら、頭領に助けられて、八咫烏に入ったの……」

私とは、状況は違うけれど……何処か重なる部分がある桔梗さんの話を聞いていると、家族のと事を思い出した──。

涙をこらえ、ゆっくりと喉に力を入れる。

「……私も家族を失って……生きる意味なんてなくなって……」

「……そうだったの……あたし達似た者同士ね!此処に居る人達は、皆あたし達のように失った人達よ……存在を失っても、何を犠牲にしても取り戻したいって覚悟で……戦ってる……」

桔梗さんの言葉に、私の心が揺れ動く──。

桔梗さんを含めた此処に居る全員が、取り戻す為に足掻いている……。

「今日は、色々あって疲れたでしょ?とりあえず、寝た方がいいよ」

ソファーから立ち上がり、桔梗さんはドアノブに手をかけた。

「おやすみ、ゆっくり休んで……」

「はい、ありがとうございます」

部屋に1人になった私は、1人で使うには大きいすぎるベッドに倒れ込む……。

「…………」

よほど、疲れていたのか……すぐに瞼が重くなり、意識を手放した。

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