第7話 勧誘

「八咫烏?」

「そうだ、知らないか?日本の神話で導きの神って呼ばれてるデッカいカラスだ」

紫苑さんは、身振り手振りで私に、八咫烏の説明をしてくる。

「聞いてきた事はありますが、御伽話ですよね?」

「いや、八咫烏は……実在するぜ……現に俺やここにいる連中は皆、身体に八咫烏を宿してる──」

紫苑さんの言葉に、周りにいる黒服の人達に目をやるが、全員人間のようにしか見えない。

「……つまり、皆さん人間じゃないんですか?」

「まあ、人間か人間じゃないかで言ったら人間じゃないな……俺達は、あんたと同じように世界に大切な『もの』を奪われた……言わば同志だ」

私が口を挟む隙を与えないかのように、紫苑さんの演説は続く──。

「さっきも言ったが、俺達は身体に八咫烏を宿してる、そのおかげで過去・現在・未来を行き来する事が出来る、起きた事を起きなかった事に、これから起きる事を起こさないように、過去や未来を変えて、大切なものを取り戻そうと奮闘してるわけだ……」

「……はぁ……」

紫苑さんの話は、あまりにも現実離れしていて、到底すぐに信じられる話ではなかった……。

「すぐには信じられないよな……でもな、俺はあんたに可能性があると思ってる、出来れば同じ仲間として、一緒に大切なものを取り戻したいって思ってる……」

確かに、紫苑さんの話が本当ならば、私にとっては願ってもない話だし、チャンスでもある……。

それでも、即答は出来なかった……。

紫苑さん、いや、この空間に居る全員から何とも言えない違和感と不気味さを感じるから

だ──。

「今すぐ、答えは出さなくていいからな、少しの間考えてくれ……八咫烏に入れば人間じゃ居られなくなるし、家族とも会えなくなるからな……」

「え?」

衝撃の言葉に、思考が止まる。

「……会えなくなるってそれは……」

「あんたが、八咫烏に入れば、俺達と同じく身体に八咫烏を宿す事になる……それは概念になるって事だ──」

言っている意味が分からず、頭をかかえる。

「概念になる事ではじめて、時を超えられるんだ……ただし、1度概念なれば2度と戻れない、あんたにはその覚悟はあるか?」

覚悟……、無い訳でもないがある訳でもなかった、正直こんな突拍子もないスケールの大きい話になるとは思ってなかったし、何より家族を救ってまた、一緒に暮らせると思ってた……。

そんな、ささやかな夢は一瞬で打ち砕かれ、私は俯いた……。

「まあ!さっきも言ったが、今すぐ答えなくていい……一気に色んな情報が詰め込まれて混乱してるだろう、今日はこのまま泊まっていけ」

「いえ!大丈夫です」

「いいから、いいから!桔梗!こいつを部屋に案内してやってくれ」

「はいよ」

紫苑さんに指名され、私の前に来たのは長身で茶色い髪のモデルようなキレイな女性だった

「あたしは桔梗、よろしくね」

「あ、はい」

「ゆっくり、考えてみてくれ……おやすみ」

またしても、不気味に笑う紫苑さんを尻目に桔梗と言う人の後に続いて部屋を出た──。

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