第5話 落下

午前2時。

人々が眠りについた頃、私は1人、薄暗い廃ビルの階段を登る。

もう何年も放置された廃ビルは、ガラスは割れ、床も所々抜けている……。

階段の踊り場にある、割れた鏡に自分の顔が映る。

「……ひどい、かお…………」

鏡に映る今の自分の姿はかつて、綺麗と褒められた黒い髪はボサボサで、目元は赤く腫れ、虚ろな目をしている……。

「ここに、ママ達が居たら……何て言われるかな……」

1ヶ月前、警察から電話があり病院に向かうが、

3人共……パパの元へ逝ってしまった後だった……。

事故当時、兄さんの車をママが運転していたらしく、踏切が降りた線路に突っ込み、3人共ほぼ、即死だったらしい……。

幸いにも、電車に乗ったいた乗客達には死傷者もなく全員無事とのことだった。

原因は、パパを失った事の喪失感から、突発的な無理心中にはしった事が原因だと推測され

た──。

その、証拠に車からも家からも遺書などは見つからなかった……。

私は、たった4ヶ月で自分を除く家族全員を失った……。

親戚、友人、周りの大人達からは、「皆の分まで……」などと言われるが、所詮綺麗ごとに過ぎない、人間はそんなに強く出来ていない……。

「……今からそっちに行くからね……」

屋上にある、落下防止の柵を乗り越え、縁に立つ。

後、1歩踏み出せばこの地獄が終わる……。

「こんな、世界に何の意味があるの?」

家族を失い、生きる意味をなくした私には、世界の全てが憎たらしく思えた──。

公園で遊ぶ家族も、喧嘩をするカップルも、仲良く散歩をする老夫婦も……何もかもが憎たらしく、羨ましく見えた。

そんな、絶望の中に居る私とは裏腹に、空には満点の星が輝いている。

今の私には、星空さえも憎しみの対象でしかない……。

「私達が一体何をしたの?ただ、普通に暮らしてただけじゃない!!何にもしてないじゃない!!返してよ!私の家族を返してよー!!!」

私の叫びは、誰かに届く事もなく虚無に消える……。

「さようなら、クソッタレな世界」

皮肉たっぷりな笑顔で、空へ飛んだ──。

楽になれる、家族の元へ行ける。

そう思って飛んだはずが、運悪く見知らぬ男に助けられ失敗に終わった……。

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