第7話 八月の花火よりうるさい君が好き。
「とーちゃーーーくっ!!」
祭り会場へと到着した僕達はどの屋台からまわるか吟味していた。
「元気だね……難波さん」
「当たり前やーん! よっしゃ、何から行く? 花火までまだ、時間あるし!」
そう言う彼女は腕まくりをする素振りをしてみせて、ニシシととても楽しそうに笑っていた。
「お祭りと言ったらやっぱり、りんご飴じゃない?」
「いや、そこはたこ焼きやろー」
「関西だな……」
「とーぜんっ!」
そして僕の意見は通らず、たこ焼き屋台へと手を繋いだまま向かった。
◇◇◇◇◇
その後も僕らは色々な屋台を回りつつ、花火が打ち上がる時間を待った。
屋台を回っている時の彼女は凄く楽しそうでずっと笑っていた。
綿菓子を食べる彼女、金魚すくいに熱中する彼女、射的を外した僕を笑う彼女、たこ焼きで口の中を火傷して涙目になる彼女。
それら全てが僕には新鮮で、どれも可愛くて、たまらなかった。
文化祭の時から目まぐるしく変わる彼女の表情に、僕はいつの間にか心を奪われていたのかもしれない。
そして僕はこの時、自分の彼女に対して抱いている気持ちが何なのか、ようやく気が付いた。
加えて今日こそ、彼女にあの件について聞いてみようと心に決めた。
◇
花火が打ち上がる三十分前――――
僕達は河川敷の花火が見えやすい位置に座り、花火の開始を待っていた。
「花火まであと三十分やって! 楽しみやなぁ!」
「そ、そうだね……!」
彼女はもうすぐ始まる花火をとても楽しみにしているようだった。
僕はというと、並んで座っている彼女との距離が近い事と、自分の彼女への気持ちに気付いた事で緊張が限界に達しようとしていた。
「ん? どないしたん? 気分でも悪いん?」
「ごめん、僕ちょっとトイレ……!」
「えぇ!? 大丈夫? ウチもついていこか?」
「だ、大丈夫! すぐ戻るから、ここで待ってて!」
「うん、わかったぁ。はよ戻って来てなぁ?」
そう言い、寂しそうな顔をする彼女に僕はこくりと頷き、その場を後にした。
◇
そしてさっさとトイレを済ませると、僕は彼女の待つ河川敷へと歩きながら、さっきの自分の情けない行動を悔やんでいた。
何をやってるんだ僕は……。
恥ずかしさと緊張で彼女の傍から離れるなんて……!
くそ、早く戻らないと……!
僕がそう思い直したその時。
通り行く人の会話がふと耳に入った。
『何あれ、ナンパ?』
『女の子、嫌がってるじゃん。可哀想に』
ナンパ……。
ここは人が沢山いる祭りの会場……。
「難波さん……!!」
僕は嫌な予感がして、咄嗟に彼女の元へ走り出した。
後先の事は考えず、とにかく彼女の無事を確認する為に。
◇
しかし、僕の嫌な予感は的中してしまった。
僕が彼女を視認出来る所まで戻った頃には、彼女はもう既にチャラついた男二人に言い寄られていた。
「なぁいいだろ? 俺達と一緒に遊ぼうぜぇ?」
「そうだよー? 優しくしてやるからさぁ?」
くそ……!
少し遅かった……。
難波さんを助けたい。でもどうやって……?
怖い。
力じゃ勝てるわけがない……。でも難波さんを助けなきゃ……。どうしよう。どうしよう。どうしよう……!
何かないか……? 僕がアイツらを追い払う方法は……。
僕がそう思っていると、彼女は眉間に皺を寄せて男二人に必死で抵抗していた。
「いらんて! ウチ連れ待ってんねん! ナンパやったら他所行きーや!」
「えー? そんな事言わずにさぁ! 楽しい事しようぜぇ?」
「ほら、恥ずかしがらずに……さぁ!」
彼女が強気な言葉で抵抗した瞬間。
男の一人が彼女の腕をガシッと掴んで、無理矢理連れて行こうとした。
「ちょっ、離せや! 痛いって! やめてや……!」
彼女のその声を聞き、僕は頭の片隅にあった昔の記憶を思い出した。
それはいじめられている女の子を助けた時。
その女の子も同級生の男の子に囲まれていて必死に抵抗していた。『痛いねん。やめてーやぁ』と言いながら……。
僕は全てを思い出した。
あの時いじめられていた女の子は間違いなく難波さんだ。
あの時、力で勝てないと悟った僕は――――
「――――そうか……。あの時僕はああやって助けたんだった……」
そして僕は、蘇った記憶と同じやり方で彼女を助ける為に行動を開始した。
「おら! 早く来いよ!」
「痛いって! 離してや……!」
未だに彼女の腕を掴み引っ張り続ける男の元へ僕は向かって行き――
「お巡りさん!! こっちです!! 女の子が暴漢に襲われています!! 早く!!」
――――そう大声で叫んだ。
すると、周りにいた人達も彼女と男二人に注目し始めた。
「や、ヤバい……! 警察が来るぞ……!」
「野次馬も集まって来やがった……。もういい……逃げんぞ!」
そして僕の作戦通りナンパ男達は、色んな人達に注目されながら無様にその場から逃げて行った。
「はぁ……」
すると彼女はその場にストンと座り込み、呆然としていた。
僕はすぐさま彼女の元へと駆け寄りしゃがみ込んだ。
「だ、大丈夫!? 難波さん!? 怪我とかしてない!? 痛かったよね……? ごめんね、僕が傍にいてあげられなくて……」
僕がそう言うと彼女は大粒の涙を流しながら僕に抱きついて来た。
「うわぁーーーーん! 怖かったよぉー! もう絶対連れて行かれると思たぁー……!」
僕は大声で泣き叫ぶ彼女を抱きしめながら、優しく彼女の頭を撫でた。
「もう大丈夫だよ。僕が傍にいるから」
「うん……。ありがとう、あっきー……。助けに来てくれて……」
「いいえ。でもまさか、またあの時みたいに難波さんを助けることになるなんて思わなかったよ」
僕がそう言うと彼女は僕の体から離れ、目を丸くして驚いた表情を見せた。
「え……? あっきー……。あん時の事、思い出したん……?」
「うん。ごめんね忘れてて……。まさかあの小さくて弱々しかった女の子が難波さんだとは思わなくて」
「そうやんな……。今のウチ、ギャルやし?」
「ほんとだよ……。わかるわけないよ。あ、そうか……! だから難波さんは毎日僕に絡んで来てたの?」
僕は昔助けた女の子が難波さんだったという事に気が付くと、彼女の今までの行動に全て合点がいった。
「せやで……? だってあっきー、ウチの事すっかり忘れてもうてんねんもん!」
「それはごめんってば……。ていうかこんなに変わってて気付ける方が凄いって」
「「ぷっ……!」」
そして僕らはお互いに顔を見合せ、同じタイミングで吹き出した。
おかげでさっきまで沈んでいた彼女の様子も心做しか元気になってきた気がした。
「……でもほんまにあっきーが助けに来てくれてよかったぁ。あん時も確か、今回みたいに『お巡りさんこっちぃー!』って叫んでウチを助けてくれたんやっけ。あん時はほんまに嬉しかったなぁ……。勿論今回も嬉しかったで?」
彼女は昔と今を重ねてそう言うと、嬉しそうに笑った。
「今も昔もあまりかっこいい助け方じゃなかったけどね……」
「そんな事ないで。今も昔も、助けてくれて嬉しかったし、ほんまにカッコよかったで。……あっきーはあん時から何も変わってない。ウチにとってあっきーはずっと、世界一かっこいいヒーローのまんまや……」
「ありがとう。そう言ってくれると僕も嬉しいよ。でもまたこんな事が起こったら大変だし、やっぱり僕強くなりたいよ……! せめて好きな人を守れるくらいには……」
「え……? 今あっきー、なんて言うた……?」
僕の想いを聞いた彼女は、何故かとても驚いた表情をしていた。
「え……? 強くなりたいって――」
「ちゃうちゃう……。その後や……」
「えっと……。好きな人を守れるくらいには……って。あ……!?」
僕は感情のままに話していたせいか、自分の彼女への気持ちまで口に出してしまっていた。
「あっきー……。ウチの事……好きなん?」
そう聞いてくる彼女は頬を赤くして、涙目になっていた。
僕も男だ。ここで逃げたら男じゃないだろう。
自分の気持ちを素直に伝えよう……!
「うん……。僕は難波さんの事が好き。難波さんの笑顔をもっと見たい。難波さんの可愛い所をもっと知りたい。……だから、僕と付き合ってくれませんか?」
僕がそう言うとピューと音を立てて花火が打ち上がった。
そしてその花火がドーーン! と音を立てて開いた時――――
「もちろん喜んで……! ウチもあっきーの事、大好きやで……!」
――――彼女は涙を流しながらニコリと笑い、そう言うと僕の胸に飛び込んで来た。
僕はそんな彼女をそのまま抱きしめると、彼女も強く僕を抱き返して来た。
「ありがとう、僕の気持ちに応えてくれて」
「うぅん! ウチ、昔からずっとあっきーの事好きやったんやで……? やからめっちゃ嬉しいよ……。でも待たせすぎやで、ほんま……」
「ごめんね。でもこれからはずっと好きでいるから……」
「うん……! 嬉しい! あぁ……あっきー大好き! 大好き! 大好き! 大好きやでーー!!」
彼女は僕の腕の中で何度もそう言ってくれた。
大きな花火の音にも負けないくらい、大きな声で。
花火よりもうるさい君が好きだ。
僕はそんな事を考えながらとてもつもない幸せを噛み締めて、笑った。
★★★★☆☆☆☆
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【ボイスドラマ】花火よりもうるさい君が好き。〜クラスカースト一位の関西弁ギャルが万年ぼっちの僕に何故か絡んでくるのだが?〜 青 王 (あおきんぐ) @aoking1210
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