第10話 悪魔が来りて…
奇しくもかつての魔法少女たちが集まる形になった大学の裏庭。
「コイツ(妖精)らにゴチャゴチャ言われるのもムカつくから、とにかく変身を解くわよ」
この格好で講義を受けたら精神的ダメージが大きすぎる。他の3人も否はなく呪文を唱えて変身を解くと、急いで校舎に駆け込んでギリギリ講義開始には間に合った。
えっ? 講義の内容。
そんなの訊きたい? 聴いても面白くないと思うわよ。
大学自体ふつうだしね。国立みたいなハイエンド校ではないけど、名前を言えば「ああ、あそこ」と返事が返ってくる程度のまあまあな学校ね。
キャンパスライフ自体も世間一般と変わらないと思うし。違いがあるとしたら〝毎月年金を受け取って〟いるから、アルバイトをしなくてもお小遣いがそこそこあるって程度かな。
共に戦った魔法少女の3人。〝プリンの森本さん〟に〝ショコラ〟の斎藤さん〝ココア〟の田中さんとも中学時代からの腐れ縁的な存在。言ってしまえばクラスメイト兼バイト仲間がそのまま持ち上がっただけだ。
ゆえに休み時間はお喋りに興じ、お昼休みは一緒に学食に行くのも自然な流れ。そもそも4人が4人とも遅刻寸前で大学に滑り込んだのだから、お昼の用意など出来ているはずもなく、思い思いにオーダーをして窓際の席に陣取った。
えっ? ランチの席での会話。
そんなの訊きたい? 他の女子大生と何も変わらないわよ。
ただ、そのランチの最中。
「ねえ。あの隅でお弁当を食べている娘、わたしたちを睨み付けていない?」
気になることでもあったのか、元プリンの森本さんが不自然にならない程度で手にしたフォークで指し示す。
見ると美人だけど地味な装いの生徒がお弁当を食べて……ん?
「どこかで見たような……」
記憶があるんだけど、思い出せないなぁ。
みんなにも訊いてみたのだけど、3人とも「見たような気はするんだけれど……」と曖昧なもの。
「そのくらい曖昧だったら気の所為じゃないの?」
バロンの意見に「そうね」と頷きかけたそのとき「見つけたわよ。ミルキー・ミルク!」と地の底から唸るような声。
声のほうに視線を向けると「此処で会ったが百年目」と、件の弁当女が右手におにぎりを持ちながら憤怒の表情で立っていた。
「えっと、どちら様で?」
頭が回らず間の抜けた質問をするわたしに、おにぎり女が「ムキ―っ!」と顔を真っ赤にする。その様子を見て元ショコラの斎藤さんが「あっ」と思い出したように手をポンと叩く。
「あの衣装を着ていなかったから気付かなかったけど、ブラック・シャドーだ。懐かしい」
「5年ぶりね。お久しぶりー」
斎藤さんの指摘で思い出したのか、元ココアの田中さんもブラック・シャドーに挨拶をする。
「もう。それならそうと名乗ってくれたら良いのに。ココで会ったのも何かの縁、一緒にランチしようよ」
席を勧めるわたしの手をブラック・シャドーが「馴れ馴れしくしないで!」と振り払う。
「アンタたちのお陰で、わたしの人生設計はメチャクチャになったのだから!」
「はぇ?」
つまり、こういうことだった。
ブラック・シャドーこと渡辺和美さんは、わたしたちと同じように引退後に〝年金〟が貰えるということで、闇の使徒であるアモンさまと契約をしたそうな。
「年金で学費と生活費が賄えて安泰だと思っていたのに、アンタたちのお陰で将来設計が台無しよ」
聞けば任務失敗で予定していた年金が貰えず、学費はスカラネットの奨学金で工面したとか。
「実家が貧乏だから仕送りなんかないし、生活費はバイトで工面するしかない。おまけに余計なお荷物まで背負ったのだから、ホント踏んだり蹴ったりだわ」
そうとうに鬱憤が溜まっていたのか、そこまで渡辺さんが一気に捲くし立てる。
「そうは言われても、コッチも仕事だったから」
「そうね。勝負は時の運だから結果は真摯に受け入れるわ。でも、これは勘弁してほしいわ」
渡辺さんがため息をつくと突然床に魔法陣が浮かび上がり、モヤモヤとした煙が湧いて中からランニングシャツにステテコ姿のお爺さんが現れた。
呆けた表情のお爺さんが渡辺さんを見つけると「和美さんや、お昼ご飯。未だかのう?」と昼食の催促。しかし左手にはお粥を盛った茶碗が握られており、明らかに食事の真っ最中。
「もう、アモンさま。今、お粥を食べているところでしょう」
ため息をついて肩を落とした渡辺さんが、匙を持っておじいちゃんにお粥を食べさせる。
って、このおじいちゃんが闇の使徒だったの?
「アンタたちに負けたアモンさまが一気に老け込んだうえに、今や重度の認知症を患ってこの様よ!」
アモンにお粥を食べさせながら渡辺さんが「いつか返り討ちにしてあげる」と息巻いているけど、それは次代の魔法少女たちとやってよね。
「わたしたちは年金生活者なんだから」
魔法少女のその続き~キボウハドコニイッタ~ 井戸口治重 @idoguti
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