第8話
今日も外は
勇真は学習机に向かって、宿題のプリントに取りかかっていた。
約四十日間の夏休み。お
鉛筆を鼻と
「なんか、ヒカリが変だな……」
《
机の
「ヤモリも
《生き物なのだから、そんなこともあるわい。犬や猫だって
確かに、お隣の
ヒカリはずっと同じ表情に見える。ヤモリにはまぶたがないし、口もパクパクするだけだ。それでは、何考えてるのかなんて分からない。
そもそも、ヤモリなんて何か考えてたりするのかなぁ? そんなに色々考えてないんじゃない?
「
《さて、どうかのぅ?》
むう、と勇真は口をゆがませて玉をにらむ。学びをサポートするって言いながら、カミサマはこうやってもったいぶってばかりだ。母さんといい、カミサマといい、簡単に答えを教えないなんて意地が悪い。勇真は、ため息をついた。
「もういいよ。元気になったんだし。これからは
めんどうくさくなって、考えることを止め、勇真はイスの背もたれに体重をかけて、うーんと腕を
なんとか予定の三十日間生き延びてもらいたい。
すると、お
「やっぱり変なの」
《はああぁぁ……》
カミサマの深い深いため息が聞こえて、勇真は玉を見た。机の
「カミサマ?」
《おぬしには、ちぃ〜とサポートしてやろうかの》
「え?」と声を出すと同時に、玉はパッと明るく銀色の光を放った。そのまぶしさに目を閉じた勇真は、しばらくしてゆっくりと目を開ける。
……開けたはずだった。でも、暗い。
え? 何で? ここどこ?
今、部屋にいたよね?
窓から
『ぼく、強くてカッコいい、
布団の中で聞いたみたいに、とてもこもった声だったけれど、これはぼくの声だ。あの時、カミサマに“
それは確かにぼくの声だったけど、ぼくはそれを聞いて、なんだか力が
なんだ? これは、本当にぼくの気持ち?
次の
見回せば、
ふと、思いつく。もしかして、これはヒカリの視界なのではないだろうか。
ぼくは今、ヒカリになっているんだ。
『……この子、ぼくのヤモリなんだな』
またぼくの声がした。なんだか胸がフワッとなった。
『光……。“ヒカリ”にする』
名前っ! 特別なものをもらった! 何てステキ!
ムズムズして、ふわふわして、じっとしていられない気持ちになる!
これは、ヒカリの気持ち? ぼくが名前をつけて、ヒカリはこんなにうれしかったのか。
のどが
水入れの水は、舌で
ぼくが学習バックをもって、部屋を出て行く。ガラーンとした部屋に、
なんだろう……、うう、さみしいな。
しばらくすると、ぼくが戻って来た!
ああ! うれしい! ねえ、また上手に水を飲むから、見て、見て!
クルクルと視界が回る。
ぼくが近付くたび、目が合うたび、ヒカリの胸はフワッとして、ほかほかして、ピカッとなって……。
ヒカリはこんなにも、飼育ケースの中からぼくを見ていたのか。ぼくのことを、こんなにも好きで。知らなかった。ぼくは全然、ヒカリのことを知らなかった……。
あの日、ぼくは
ぼくはヒカリの視界で、ずっと部屋のドアを見つめていた。ぼくが帰って来て、霧吹きを忘れていたことに気付いてくれるのを、ずっと待ってた。
ヒカリはぼくが好きだから。それも理由だ。でも、それだけじゃなく、ヒカリの世界はこの飼育ケースの中だからだ。飼い主のぼくが開けてやらなければ、すぐそこにある
飼い主を待つしか、ヒカリに出来ることはないからだ。
早く。ねえ、早く。
待ってるよ。ちゃんと、待ってる。
待ってるから、早く帰って来て、見つけてよ……。
「ごめんな、すぐ水をやるからな」って、
待って、待って。そして、ようやく帰って来たぼくは言ったんだ。
『ヒカリ、元気出せよ。……ヒカリが死んだら、また自由研究が出来なくて困るんだから』
ガンッ
大きな音がして、頭が、体のあちこちが痛んだ。そして、映像がゆがんだ気がした……。
気が付いたら、ぼくは、学習机の前に座っていた。ジージーと、大きなセミの声がひびく。
《勇真や、ヒカリの声が、聞こえたかの?》
机の上で
窓際に置いた飼育ケースを見れば、
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